長引くコロナ禍、ロシア・ウクライナ情勢。
いつ何が起きてもおかしくないご時世の中での新年度のスタート。
組織も個人も、今まで以上に”強さ”が問われる時代、と言えます。
「タフでなければ生きていけない。優しくなれなければ生きている資格がない」
というハードボイルド小説の名手、チャンドラーの名言が思い出されます。
強さとは何かを考える上で、経営者やリーダーに、
ぜひとも読んでいただきたいのが、今回紹介する
『ヒクソン・グレイシー自伝』(著:ヒクソン・グレイシー、ピーター・マグワイア)
“400戦無敗”の伝説の柔術家として、日本でも絶大な人気を誇るヒクソン・グレイシー氏。
本書は、そんなヒクソン氏の自伝の決定版。
注目すべき見どころは2つ。
1つは、これまでの人生。
“ストイックな侍”を思わせるヒクソン氏だが、本書に綴られた半生は、
波瀾万丈の極みと言っても過言でないもの。
例えば、婚外子としての生い立ち、一族間における確執、ブラジルでの危険な日々、
さらには、女性関係や息子の死など、ここまで書かなくてもよいのでは、と思うほど、
実に赤裸々に!
もちろん、数々の名試合の裏側や、試合中の心理も。
自伝にありがちな、かっこいい面ばかりをアピールするものとは一線を画し、
絶対王者の中にある”弱さ”との対峙は大きな見もの。
ブッダが悟りを開くまでの物語が、オーバーラップしてきます。
もう1つは、指導者としてのヒクソン氏の姿。
父エリオ氏からの教え、それを受け継いだヒクソン氏がどのような指導を行っているか?
驚くことに、グレイシー式柔術指導は、そのままビジネスにも役立つ!
では、ブラジル実業界リーダーや政治家も指導していたという、父エリオ氏の教えを1つ引用します。
―まだ6歳だった頃、マットに上がる直前、父が「ヒクソン、試合に負けたらプレゼントを2つやろう。勝ったら1つだ」と言った。負けても怒られないのだと思うと、重圧が消えていった。試合には負けたが、父が怒らなかったので、嫌な思いはしなかった。それどころか、年上の子たちに向かっていった私を父は誇りに思ってくれた。父に認められた、感じたのはそれだけだ―
続いてヒクソン氏の教えを1つ。
―生徒の本当の個性が見えてくるのは、物理的な圧力をかけられた時だ。マットの外では隠せることもたちまち露わになる。例えば感情のバランス、また、かけられた圧力にどんなふうに対処するか。こういった情報を把握した上で生徒のニーズに合わせたカリキュラムを作成すれば、個々の生徒に深い恩恵を与えることができる。自分がどんな戦い方をしているかだけでなく、戦っているとき自分の心がどう動いているかを、本人に見定めさせるのだ。自分と正直に向き合えば、柔術が上達するだけではなく、より強い人間に生まれ変われる。戦いの場だけでなく日常生活においても、よりたくましく賢く粘り強くなれる―
経営者、リーダーはもちろん、親、教師、指導者にとって、興味深い内容ばかり。
ヒクソン氏やグレイシー柔術のことを知らなくても、問題なく楽しめ、学べます。
新年度をより強く生きるべく、ぜひとも読んでみてください。
尚、本書を読む際に、おすすめの音楽は、
『ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番&第2番、スコットランド幻想曲』(演奏:ヤッシャ・ハイフェッツ)
です。
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番&第2番、スコットランド幻想曲/amazonへ
ヴァイオリンの巨匠、ヤッシャ・ハイフェッツの名演!
『スコットランド幻想曲』は、スコットランド移民の家系であるグレイシー家の、いわば心の音楽でもあります。
本書とあわせてお楽しみいただければ幸いです。
では、また次回。