東日本大震災と原発事故から1年余りが経過した。復興事業が遅々として進まないもどかしさに加えて、原発を含む「エネルギー戦略」が定まらず、電力制約が経済成長を妨げていることも深刻だ。そこで大震災の影に隠れたが、2010年に政府決定された「新成長戦略」は各国が限られたパイを奪い合うグローバル競争の中で、日本が生残りを賭けて競争力を磨くべき分野を示している。投資対象を研究する上で興味深いので、数回に分けて順次紹介してみよう。
1.インフラシステム輸出の将来性
先進国の停滞を尻目に、新興国や途上国が高い成長を続けている。しかし、軽工業から産業構造を高度化するためには、空港・道路・港湾や鉄道輸送、上下水道や電力網などのインフラ整備が喫緊の課題になる。経済産業省の推計によれば、インフラ整備関連需要はアジアだけで年間約57兆円にも上る。このほか資源価格高騰で潤う中東、アフリカ、中南米諸国も含めれば、将来の需要はうなぎ上りであろう。
従来、インフラビジネスは関連企業が単体で進出し、またはプラントメーカーが中核になって部品や設備を調達し建設してきた。しかし、欧米に加えて韓国や中国企業との競争が激化してきた中で、事業の計画段階の調査から建設後の管理運営まで、「システムを丸ごとパッケージ化」することで競争力を向上するが必要が高まった。
原発は日本での新設は不可能な情勢だが、世界では需要が増大している。主要メーカーは日・仏・韓・露などの数社に絞られている。将来人類に原発が必要か否かという議論はあるが、今すぐ脱原発になっては地球温暖化防止も何もあったものではない。太陽光や風力発電など再生可能エネルギーによって需要を賄う目処がつくまで、世界では厳重な安全管理の下で原発を併用せざるを得ないことになる。
新幹線など高速鉄道は、まさに日本がその高い技術力と安全性を交通インフラ整備に活かし、温暖化防止にも貢献できる分野だ。朝晩の大渋滞に悩む途上国だけでなく先進国でも、大量輸送が可能な公共交通の需要が高まっている。鉄道車両市場は独・仏・加のビッグ3がシェア50%超を占め、日本は10%未満である。JR東海のリニア構想など先進技術をアピールして今後の巻き返しに期待したい。
そのほか水ビジネスも従来は欧米企業の独壇場だったが、最近では総合商社が中国や中南米などで上下水道事業の経営を拡大していて、将来性が楽しみな分野である。