商業統計からこの5年間(2011年度から2016年度)の小売業の売上高推移を見ると、全体が年率0.5%増であるのに対して、コンビニは5.1%増と気を吐き、スーパーは0.0%と全く成長していない。もっとも、スーパーというくくりには衣料品や身の回り品も多く扱う総合スーパーと食品を中心に扱う食品スーパーがある。商業統計ではこの両者は区分されていないが、スーパーの中でも、飲食料はこの5年間で年率2.3%の増加となっており、飲食料以外は5.2%の減少と対照的である。
このように商業統計からも、小売り不振の象徴である総合スーパーの不調と、コンビニの好調、食品スーパーの健闘という形がはっきりと読み取れる。ただし、5年間で見るとこのような形であるが、実は最近になって成長業態という認識が広まり、集計対象となったドラッグストアはさらに高い伸び率となっている。ドラッグストアのデータは2014年度から集計が始まったので、その期間に合わせてみると、各業態の年度平均成長率は、全体が0.3%増、スーパー計が1.2%減、コンビニが4.5%増、スーパーの飲食料が2.4%増であるのに対して、ドラッグストアは8.0%増とドラッグストアが圧倒的に高い伸び率となっている。
ただし、一口にドラッグストアと言っても業態のバリエーションは千差万別であり、どの業態が主流となってゆくのかは混とんとしている。その中で、コンビニに変わる存在になろうという戦略を強く打ち出して、躍進する存在がウエルシアホールディングスである。
2017年2月期の売上高は6,230億円と業界トップに立っているが、第2位のツルハの2017年5月期の売上高も5,770億円とトップ争いには激しいものがある。
同社ではドラッグストアの成長パターンの一つの典型として、食品強化型の店舗を展開している。ドラッグストアでは食品の廉価販売で集客し、クスリや化粧品で稼ぐというパターンがあるが、同社ではすでに食品売上が20%を超えており、依然その構成比は高まりつつある。
もう一つの同社の特徴はドラッグストア内に調剤薬局を併設する店舗が多いことである。ドラッグストアでも調剤薬局は全く手掛けない会社がある一方、ドラッグストアとは別に調剤薬局を別店舗で運営する会社もある。同社は意識的に調剤薬局をドラッグストア内に併設し、地域の食と健康に貢献する方針を強く打ち出している。また、同時に24時間営業店を増やしており、これも24時間体制で処方箋の受付に対応する狙いがある。
同社では将来的にコンビニに対抗できる存在になることを意識ており、24時間営業はある面その布石でもある。また、ドラッグストアでは珍しく、弁当の提供も行っている。食品強化、24時間営業、弁当とコンビニに対抗する商品を扱っていることに加え、さらに店内でくつろげるウエルカフェの併設も進めて、コンビニ代替業態の展開を行っている。
有賀の眼
ドラッグストアがコンビニに代わる存在になるという考え方は、最初の内は本当に実現性があるのだろうかと見ていた。しかし、世の中の人手不足の深刻度が増す中で、このところコンビニのビジネスモデルの欠陥が徐々に明らかになり始めていることから、必ずしも絵空事ではなくなってきた印象を受ける。
つまり、コンビニの忙しさが嫌われて、パートが集まらないという現象である。コンビニはFCであるので、直ちに本部の業績に影響が出るわけではないが、すでにFCのオーナーにかなりのしわ寄せが出始めている。つまり、パートが集まらない中で、オーナーおよびその家族が過重労働となっていることが挙げられる。
コンビニはFCであるため、同社のような会社と単純に比較することは難しいが、一つの経営指標から同社とコンビニの雄であるセブン・イレブンを比較してみよう。両社の店舗当たり平均日販は同社が1,138千円であるのに対して、セブン・イレブンは657千円となっている。店舗面積で言えば、コンビニはドラッグストアの5分の1から10分の1であるが、その店舗で1日当たり2分の1以上の売上を達成しているのである。それを想像するだけでもいかに目まぐるしく商品が回転しているかがわかる。しかも、客単価は圧倒的にコンビニの方が低いわけであるので、これは接客頻度が圧倒的に多いことを意味する。
また、レジ打ちにしてもドラッグストアは単純な作業であるが、コンビニは単純なレジ打ち以外に、公共料金の支払い、宅急便の受付、弁当の温め、おでんやコーヒーなど様々であり、パートのストレスはかなりのものになろう。
同社も24時間の営業店舗を増やしているが、現時点では10%以下の店舗であり、将来的にも必要以上に多くするつもりはない。しかし、コンビニの場合、ほぼ100%が24時間営業である。外食店では防犯の意味もあって、ワンオペ解消に対応したパート雇用の確保ができずに、24時間営業を停止する店舗がかなり増えてきたが、コンビニではパートが確保できずに、実質的にオーナーのワンオペになっているケースも多いようである。
かつての人余りの時代にはいざ知らず、すでに我が国の有効求人倍率は1.59倍(2017年12月)と1974年1月以来44年ぶりの水準まで高まっているのである。奇しくも、セブン・イレブンの創業は1973年であり、その後、長期的に人余り傾向が強まる中で、その恩恵を受けてきた可能性があろう。すでに、ヤマト運輸は人手不足による労働時間の壁に突き当たり、料金を上げて、不採算の顧客との取引をやめる決断を行った。やがては、セブン・イレブンもそのような決断を迫られる時が来るのではなかろうか。そうなったときに、顧客の受け皿として同社の戦略が脚光を浴びる時代がやってくるのもそう遠くない将来かもしれない。