コロナ禍の影響で、お客様や取引先だけでなく、社内でも人と人との距離感が広がりました。そんな中でも、声のかけ方ひとつで人よりも商売に役立つ有益な情報を入手し、幹部や社員の仕事やプライベートでの悩みなどを押さえて社内を活気づけ、ますます好調な社長もいます。
今回は経営者や各界の一流人とも親交が深いコミュニケーションの達人・中谷彰宏氏に、上手な社長の「声かけ」のコツについてお話をお伺いしました。
■中谷彰宏氏(なかたに あきひろ)/作家・中谷彰宏事務所代表
中学時代からABC朝日放送やラジオ大阪に学生DJとして出演。83年小説『目覚し時計の夢』(早稲田文学)を発表し、23歳で学生作家デビュー。早大在学中では演劇科・映画史を専攻し、毎月100本をノルマに4年間で約4000本の映画を観る。84年博報堂入社。CMプランナーとしてTVやラジオCMの企画・演出、ナレーションを担当。87年ACCラジオCM賞受賞(AGF) 、88年ACCテレビCM賞受賞(リクルートフロムエー)、TCC準新人賞受賞、ほか多数受賞。91年株式会社中谷彰宏事務所設立。オスカープロモーションに所属し俳優としても活躍中。1959年大阪生まれ。
社長が持つ「無意識の威圧感」をなくすには
社長や各界の一流の方々と接する中で、コミュニケーションがうまいと思う方の特長や共通点はありますか?
「話し方」や「スピーチ」は練習できる教材も多いし皆が意識しているけど、意外に「声かけ」を上達するための方法論は少ないですね。そして私がこれまで出会ったコミュニケーション力が高い方々は皆、この「声のかけ方」がうまい。
ほとんどの社長は自分が話すことは得意でも、声かけは苦手です。改善の第一歩としてまず気付いて欲しいのは、社長は自分が思うよりも相手に〈威圧感〉を与えてしまっているということです。
本能的に「舐められてはいけない」という気持ちがあるせいか、相手に余計な緊張感を与えてしまいがちです。すると最初でしくじってしまう。最初でしくじると、しばらくその印象を引きずってしまいます。
コミュニケーション上手な人が大事にしているのは、最初のひと言。最初がうまくいけば、あとはスムーズです。
リーダーの声かけは「アタック」でなく「トス」
最初のひと言が肝心、となると構えてしまい、社長の方が何を話せばよいか困ってしまいそうな気もします。
気負ったセリフは必要ありません。むしろ、相手も後で思い出せない位、さりげないひと言でよいのです。
社長は相手にインパクトを与えるような、印象的な話や名言をつい用意しがちですが、それは必要ありません。むしろ相手にスムーズに話してもらえる空気にする事が大切です。
要するに、リーダーがすべきことは「アタック」ではなく、「トス」。自分がプレイヤーになって目の前のボールに集中するのでなく、全体を見てゲームを回すことです。上手な会話のトスができれば、結果的に社長の商売の幅を広げることに繋がります。
そして、声かけは何回やってもOK。会話はラリーを楽しむものです。最初のひと言は肝心だけど、一発でうまくいくことなんかありません。何度もトライしているうちに、精度も徐々に高まっていくものです。そうしたら、しめたもの。
良いサービスをうけるには「感じの良いお客さん」になる
社長自身がお客様になった時、よりよいサービスを受ける、また深い情報を聞き出すためのコツはありますか?
良いサービスを受けるためには「感じの良いお客さん」になりましょう。そこでも大事なのは声かけです。
これは実はとても簡単で、マナーや作法というか、人がその場を楽しむための基本にも通じます。電車や新幹線でリクライニングを倒す時に、「すみません、イス倒していいですか?」とひと声かけるようなものです。
また、声かけの基本は「自分から」。感じのいい人、尊敬されるリーダーは偉い人にも関わらず、ちゃんと自分から声かけしている。とても気持ちが良いですよね。
具体的には例えばタクシーの運転手さんには「景気はどうですか?」でなく、「一時より、持ち直しましたか?」この声かけだけで、自然と運転手さんが感じるリアルな地元の景況感の変化も教えてもらえるでしょう。この時のポイントとしては、景気のトップでなくボトムから尋ねること。話の内容もポジティブな話になる可能性が高く、車内の雰囲気も良くなります。
コロナ禍で距離感が広がった今こそ、小さい言葉の雑談を大事にする
新型コロナの影響で人と人との距離感が以前よりも広がりました。いま、リーダーが意識すべきことは何ですか?
なかなか面と向かい合うことができないから、小さい言葉の雑談が大事なんですよね。
例えば社員とコミュニケーションを取ろうと思った時に、どうしても30分~1時間ほど取ってじっくり話し合おう、となるけど、実は今は、長さよりも頻度。コミュニケーションの頻度を上げることを意識してみてほしいですね。
トイレで隣り合わせた。エレベーターで一緒になった。廊下ですれ違った。朝、人が少ない時間帯に一緒になった…こんな何気ないタイミングでのやりとりがいかに大事か。
本音は、雑談の中に出てきやすい。威圧感のない、気軽な雑談ができると、それだけで社長は得ができます。
リーダーは英会話のように、「10文字の声かけ」フレーズの引き出しを増やしていけば良いリスペクトされ、得ができる様になる
雑談の良い所は、かしこまった形式ではないので、周りにいる人たちもなんとなくその内容を聞いている所。ここで気楽な声かけができていると、本人以上に周りの皆がそれを聞くことで、全員のリーダーに対する安心感が増すのです。すると仕事も職場の人間関係も自然とうまく回るようになっていきます。
ただ最初も言ったように、多くの社長が「長くて良い話」の引き出しばかり集めているので、声かけのボキャブラリーが少ないんですね。これを増やしたい。
英会話が得意な人は「3つのワード」で状況に応じた会話ができます。これと同じで、声かけの場合は10文字くらい。「10文字の声かけ」フレーズをいくつか知っておくだけで、うまい会話のトスができるようになります。
「声かけの達人」では、「アドバイス」「会議」「モチベーションアップ」「ねぎらい」「取引先に対して」「部下を褒める」…など、15のシーン別に、大小合わせて150以上の声かけフレーズをご紹介しました。これらの中から社長が気に入ったものをいくつか実際に使って、自分なりにアレンジしていって欲しいですね。そうすることで、皆にリスペクトされて人と情報が集まる社長になってもらいたいと思います。