さて、先回に引き続き急所70について、N社のUさんからおもしろい質問を頂きましたので、これを題材にしたいと思います。
Uさん 「急所70は急所12と同じ内容ですか?」
柿内 「ドキッ! 急所12って何でしたっけ? ^ ^;」
Uさん 「えっ、知らないんですか! やだなあ…『ムダには七種類あるが、最も注意すべきはつくり過ぎるムダである』ですよ」
ちなみに、N社では毎朝の朝礼で、「改善の急所101項」のどれか一項目を全員で唱和して、その日の当番の人が自分の考えを話すという使い方をしてくださっています。
すでに、ひとり四周目に入るとのことで、みなさんがかなりしっかり読み込んでおられます。
そこで、時々私に質問が来るのです。、N社の方たちからの質問は、毎回核心をついた素晴らしい内容であるのですが、今回のUさんの質問も抜群です。
私は次のような答えをしました。
「Uさん、その通りです。『出荷に間に合う、最もゆっくりなスピードでつくる』というのは、早くつくり過ぎのムダに対する改善実行の方法のひとつです。急所12で『ムダには七種類あるが』といっているのは、トヨタ生産システムの七つのムダのことです。(参照 改善の急所 236ページ)
これまでにも何回かお話をしたことがありますが、トヨタ生産システムの「七つのムダ」の一番目は「つくり過ぎのムダ」です。そして、そのつくり過ぎには「多くつくり過ぎ」と「早くつくり過ぎ」の二つがあります。
今回のテーマは、「早くつくり過ぎ」を防止するための行動指針です。そして、不思議に思われるかもしれませんが、速くつくるより、ゆっくりつくる方が生産性は良くなるのです。
トヨタ生産システムは世界中の人が勉強して実践している、日本が誇る超すごいシステムです。しかしその一つひとつの言葉が極めてシンプルで分かり易いために、自分勝手な解釈ができてしまうのも事実です。
実際にはまだ入口レベルの改善でしかないのに、既に完成したと思いこんで、それ以上の努力をしていない会社もあるのです。
例えば、昔はもっとすごいスピードでつくっていたけど、今はかなりゆっくりつくれるようになりましたといった具合です。しかし、システムの運用は以前との比較で良くなっている程度のレベルで満足してはいけないのであって、あくまでムダはゼロを目指すべきですよね。
もっと大きな効果を出せるのに、途中で改善を止めてしまうのはもったいないです。
スピードを上げると人は機械の監視者になっていきます。しかし、機械のスピードがゆっく作りだと、両者が共に付加価値を生み出しながら働けます。
高価な機械だから、スピードを上げなければと思いこんでいる人がいますが、つくる量は決まっているのだから、早くつくれば結局不要な在庫が増えるだけということです。
そこで皆さんにお願いです。現場に行って、この急所70がどのように実践されているかをチェックしてみてください。
「そんなギリギリにつくって、もし途中で機械が壊れたらどうするんですか!?」という反応があったら、もっと機械の予防保全が必要だと考えます。
あるいは、「そんなギリギリにつくって、もし不良が出たらどうするんですか!?」という反応があったら、もっと品質の造り込みの改善が必要だと考えましょう。
最後に、おことわりしておきたいことがひとつあります。 それは、今回の文章の中で漢字を一部変えているところがあります。「改善の急所101項」での表現は「造る」であり、大野耐一著の「トヨタ生産システム」の中で使われている字は「作る」、そしてそれ以外の場面ではしばしば「つくる」が使われています。
それぞれの字に独自の意味があると思いますが、一つの文章中にそれら別々の文字が交互に入ると非常に分かりにくくなるので、今回は「つくる」に統一して書きました。よろしくお願い申し上げます。