中小企業が「テレワーク・在宅勤務」を推進する際の現状と課題~その1~
令和2年4月7日、新型コロナウィルスの感染拡大を受け「緊急事態宣言」が出されました。
対象となった東京、大阪など7都道府県の全事業者に対して、社会機能を維持するために必要な職種を除き、
①オフィスでの仕事は原則として自宅で行えるようにすること
②出勤者を最低7割は減らすこと
が要請されました。
実際に、どの程度の会社が在宅勤務を実施したのでしょうか。
東京商工会議所が会員企業に緊急アンケート(2020年5月29日~6月5日、回答数1,111社)を行った調査結果によると、緊急事態宣言後のテレワークの実施率は67.3%と急増していました。
企業規模別に見ると、従業員300人以上の企業は90%であるのに対して、従業員30人未満では45%という実施状況でした。
御社で在宅勤務をした社員は、社員全体の何%でしたか?
●書類にハンコを押すためだけに、社員が出社していませんか?
テレワークの普及については、業種や業態、仕事の内容によっても差があります。
現場で働く人には、テレワークは困難です。
それに対して、デスクワーク中心の内勤社員は比較的テレワークや在宅勤務に向いていると言えます。
私は仕事柄、緊急事態宣言後の企業の経理部門の出勤状況を、いろいろな会社に確認してみました。
すると、経理社員のほとんどが、ほぼ毎日出社して通常通り勤務していたのです。
この時期、3月決算の繁忙期と重なったこともありますが、決算担当ではない経理社員や、決算期ではない企業の経理社員も会社でいつもどおり仕事をしていました。
テレワークや在宅勤務ができない理由は、いくつもあります。
その中でも経理部門でもっとも多かった理由が、「紙とハンコがないと仕事ができない」というものでした。
「取引先から郵便で請求書が届くので、会社に行かないと確認できない」
「関連部門や上司の承認印がないと仕事が進められない」
などというものです。
ハンコが押された紙(請求書、領収書)で仕事が始まり、仕事の終わりも紙(伝票、帳票)にハンコを押すことだからです。
紙とハンコで業務を進めている限り、テレワーク・在宅勤務はしたくでもできないでしょう。
あなたは今日、書類にハンコを何回押しましたか?
●ハンコなしでも法的には問題ない
日本の商慣習では、紙にハンコを押すことにより、正式な書類とみなしてきました。
では実際のところ、ハンコに法的な根拠はあるのでしょうか。
今回の緊急事態宣言によりテレワーク・在宅勤務を進めるにあたり、このハンコ問題に対して、内閣府・法務省・経済産業省が見解を示しました(「押印についてのQ&A」)。
その概要をひと言でいうと、特段の定めがある場合を除き、「契約書に押印をしなくても法的には問題ない」というものです。
つまり、ハンコがなくても取引が無効になることはありませんが、押印されている書類のほうが法的に証拠能力が高いということです。
従って、テレワークと在宅勤務を推進するうえで、会社として紙とハンコをどう扱うかが問われます。
「押印された紙の文書がないと仕事ができない」とすると、何も変わりません。
しかし、すべての書類や手続きの押印文書を残す必要はありません。
例えば、法的に問題が発生する確率が高い金額の大きい契約書(例えば100万円以上)だけを押印文書で管理し、少額なものから電子的な記録を認めることも可能でしょう。
今後は取引のデジタル化が急速に進む傾向にあります。
取引相手が紙とハンコなしで仕事をしている場合、こちらも電子化された書類で仕事を進めていくことになります。
その場合、電子メール等の記録や、さらにハンコの代わりに電子署名や電子認証などの仕組みも利用されていくことになるでしょう。
御社では、押印されていない書類を正式な文書として認めますか?
●まずは社内のペーパーレス化から始める
今回のテレワーク・在宅勤務を機会に、ペーパーレス化に踏み切る会社が増えています。
法的な問題はないとしても、対外的な取引のすべてを紙とハンコなしにするには、もう少し時間がかかるでしょう。
最初は、社内の書類を廃止するところから始めるのが一般的なやり方です。
グループウェアなどを使って、申請書類や承認を電子化していきます。
日本企業に勤める営業社員は、交通費など経費精算の申請書類を書くために、毎月平均約1時間もかけていると言われています。
経費精算のクラウドサービスを利用すれば、社員は出社しなくても自宅から申請が可能です。
インターネットに接続できれば、経費申請をスマホで簡単にどこからでもできます。
事務処理のためにわざわざ会社に戻る時間や書類作成の時間が減れば、残業時間が削減されます。
また、ペーパーレス化により効率化された時間を、他の営業活動に充てることもできます。
1年間で考えると、大きな時間です。
残業時間が削減するとともに、御社の営業力がアップするのです。
御社では、社員が紙の書類の処理をするために、毎月何時間かけていますか?