3月は新年度を迎えるにあたり、組織体制の変更や人事異動、社員の入社準備などの対応で慌ただしい時期です。
また、最近の急激なインフレに伴い、社員の賃上げを実施する企業も増えています。
こうした人員や人件費に関する動きがあるときには、仕事の成果である生産性の検証が重要になります。
一方で、会社の中でも異動が少ない経理部門は、仕事内容も変化がないため、生産性のチェックがあまり行われていません。
そのため、経理の仕事は業務効率の改善意識が低くなっているので注意が必要です。
そこで今回は、経理業務の生産性について、説明します。
御社の経理は定期的に仕事の生産性を点検していますか?
⚫️仕事量の変動を取引件数で把握する
仕事を分析評価するときに、必ずやるべき事は作業の内容を計測して数値化することです。
経理担当者に定期的に面談している会社は多いですが、得られる情報は「書類が増えて忙しい」などといった、あくまでも個人の主観的な曖昧なものにすぎません。
担当者の意見や感想は、人事評価をするうえでの参考にはなりますが、仕事の生産性を把握するのにはあまり役に立ちません。
したがって、経営的に業務内容を把握するには、数値化して客観的に判断できるようにしなければならないのです。
社長は、月次決算において、毎月の売上高や各経費科目の金額を確認して、会社の業績を把握しています。
そこで、月次における取引件数も合わせてとらえておくと、仕事量のボリュームを数字で認識できます。
会計仕訳伝票の枚数や、発行した売上請求書の枚数、支払をした請求書や領収書の枚数などです。
実際に、伝票や請求書、領収書の枚数を数えるまでもなく、会計システムのデータを使って勘定科目ごとの仕訳件数から簡単におおよその件数がわかります。
経理担当者に指示して、月次単位での取引件数を調べてもらいましょう。
会社の繁忙期と閑散期では取引の件数が異なりますので、過去3期分の月次損益の推移と、月次の取引件数の推移を並べて見比べてみると、仕事量の変動が見えてきます。
会社全体で毎月何件取引していますか?
⚫️経理のタイムパフォーマンスを計測する
次に測定する数値は、作業時間です。
仕事の効率は、時間あたりの仕事量で計算できるからです。
人事担当者に確認して、経理部門全員の毎月の業務時間を出してもらいます。
担当業務ごとに残業時間の月別の推移を見ておくと、業務の問題点が認識できます。
さらに、各担当者の時間配分の詳細を調べます。
経理社員全員に、作業別にかかった時間を毎日細かく記録しておいてもらいます。
そして、記録した毎日の業務別の作業時間を1ヵ月分集計します。
経費精算や支払業務、会計処理、請求書の発行、売掛金の入金管理、書類の整理保管など、業務別の月間の作業時間を把握するのです。
最後に、各業務の1ヵ月間の取引件数とそれにかかった作業時間を対比させて、作業効率を計算します。
例えば、3月の会計伝票の枚数が1000枚で、会計処理作業の時間が8時間であった場合、 1時間あたり125枚、 1分間で約2枚、伝票処理したことになります。
同様に、経費精算や支払業務などについても、時間あたりの処理件数であるタイムパフォーマンスを認識しておきましょう。
経理担当者の仕事能力を業務別に数値で把握しておけば、取引量が増えた場合にどのぐらいの業務時間が必要になるかを予測することができます。
新年度の売り上げ増加見込みに合わせて、経理部門の残業時間の増加や派遣社員の追加費用も見積もれます。
新規事業や新店舗の増設など、売り上げや取引の増加が見込まれる場合において、直接部門の人員増だけでなく、間接部門の業務量の増加も考慮すべきです。
新年度の間接部門の業務負担の増減を見積もっていますか?
⚫️賃上げで経理業務のコストパフォーマンスが低下
仕事の生産性を評価するときに、時間と同様に考慮すべきなのがコストです。
経理のコストは、ほぼすべて人件費と考えていいでしょう。
新年度からベースアップにより、全社員の賃金が5%アップしたとします。
その結果、時間あたりの処理件数は同じであっても、事務コストが単純に5%アップすることになります。
つまり、コスト的には仕事の生産性が低下する(1件あたりのコストが増加する)ことを意味します。
さらに、新年度の売上高が増加する場合、それに比例して取引件数の増加が見込まれます。
作業効率が同じであれば、経理部門の残業代や人材派遣料が増加することでしょう。
金額は小さいかもしれませんが、管理費が増加して、その分だけ利益が縮小します。
新年度の経理部門の人件費予算を確認して、各業務におけるコストパフォーマンスの影響を計算してみてください。
新年度の経理部門の人件費予算はいくらですか?
⚫️経理の仕事の生産性を毎年点検する
今回は、経理業務の生産性について、説明しました。
ポイントは次の3つです。
・月次の取引件数の推移を把握する
・業務別の作業時間を集計して作業効率を計算する
・経理コストの増加による業績への影響を把握する
すべての社長が会社の業績を把握していますが、仕事の生産性まで定期的に点検している社長は多くありません。
社長としては、売上高や利益だけでなく、「件数」や「時間」、「コスト」の数値に着目して、生産性の変化を捉えておくと的確な経営判断ができるようになります。
毎月、売上高と利益だけを見て安心していませんか?