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マネジメント

組織を動かす力(13)織田信長に見るワンマン統治の落とし穴

指導者たる者かくあるべし

 才能ゆえの独断

 魅力あふれる独創性の裏で残忍な恐怖統治―戦国時代の鬼才、織田信長に対する人物評は大方こういったところだろう。

 なにごとにおいても従来の常識を嫌い、独自の組織編成、戦術を駆使して、天下取りの道を駆け上がる。逆に、自らの才能をたのむあまり、他人の意見を聴かず、意見し口答えするものをいつまでも恨み、追放を繰り返す。

 キリスト教の布教をめぐり信長を間近に接して観察した宣教師のルイス・フロイスは、信長の特異な性格について、「勇敢で、合理的思考を持ち、行動においては果断である」と評価する一方で、「猜疑心が強く、短気で気まぐれ、傲慢、残忍で他人に対しては厳格で執念深い」と見抜いている。人はみな自分より劣ると蔑視しているから、権力を維持するためには、見せしめで処罰し、恐怖政治による統治に行き着く。

 信長に限らず、才能あるワンマン経営者が陥る罠でもある。

 

 老臣追放の弊害

 他人に完璧を求める信長の残忍で無慈悲な人事処分は、彼の天下統一が視野に入った天正8(1580)年に相次いで起きる。

 そのうちの一人、林秀貞は長年織田家の家老を務めてきた。信長が13歳で元服して家督を継いだときも家老として、信長を後見した。この年、その秀貞を追放処分としている。

 『信長公記』によれば、処分理由について、「かつて信長公が苦労されたときに野心を抱いたため」とだけある。「信長公の苦労」とは、家督を継いだ信長の性格の短所を懸念した秀貞が、信長の弟、信勝を担いでクーデターに立ち上がったことをいうのであろう。しかし、それは24年も前のこと。しかも、騒ぎが収まったあと、秀貞は赦されて家老職に留まり、領地の没収もなかった。それをいまさらに持ち出して追放するとは、なんとも執念深い性格である。

 秀貞の追放に先立って、武将として信長を支え続けてきた佐久間信盛も追放した。理由は、信長に刃向かった大坂本願寺の攻略に、大坂方面軍の信盛が五年かかったことだ。

 信長が佐久間一族の高野山追放をしたためた折檻状がある。そこには、「これまで佐久間父子が比類ない手柄を立てたことがあったか」と書かれている。しかし信盛は、常に信長の戦いに従軍して輝かしい戦果をあげており、「逃き(のき=撤退戦)の佐久間」として勇名を馳せていた。信盛は頭を丸めて高野山に落ち、十津川の寒村で非業の死を遂げた。

 

 自ら招いた本能寺の変

 林秀貞、佐久間信盛の処分理由は“後付け”である。要は、自分に意見を言える老臣、手柄を立て続ける宿将が邪魔になっただけだ。実際に“うるさ方”の二人を追放したあとに、信長は自分が育てた側近により人事刷新を断行している。

 佐久間信盛が消えたあと、大阪方面軍は解体され、羽柴秀吉の中国方面軍、明智光秀の畿内方面軍が大幅に強化された。

 老臣追放から二年後、光秀はクーデターを決意し、信長を本能寺において討つ。光秀の謀反の動機については、いまだ謎が多い。しかし光秀が、主君の“むちゃ振り”で名誉を剥奪されたふたりの姿に、「次はおれか」と自らの将来を重ねたことはあり得るのだ。

 政治でも企業の世界でも、ワンマンリーダーの恐怖統治が永続的な繁栄をもたらした例は古今東西の歴史を見ても、ない。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考文献
『信長公記』太田牛一著、中川太古訳 新中経出版新人物文庫
『信長と消えた家臣たち』谷口克広著 中公新書
『完訳フロイス日本史2、織田信長篇』ルイス・フロイス著、松田毅一・川崎桃太訳 中公文庫

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