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危機への対処術(21) 揺れる世界情勢の中で(ド・ゴール)

指導者たる者かくあるべし

フランスの栄光

 1959年3月、第五共和国の大統領に就任したド・ゴールは、立法府(議会)を圧倒する行政権力を掌握し、復興に動き出す。彼が目指したのは「フランスの栄光」の復活だった。その政策は、ド・ゴール主義と呼ばれる強烈なもので、内政的には、右翼、左翼も巻き込んで市場経済、企業運営に政府が強く関与する国家社会主義的傾向を帯びた。


 これは、大戦後の国際社会が米ソの対立する冷戦構図の中で、下手をすると米ソ両大国が対立する間でフランスという国家が埋没しかねないという危機感からくるものだった。


 必然的にド・ゴール主義の影響は外交面で強く現れる。冷戦対立の国際社会で、基本的に米国側の自由主義圏に与しながらも、米ソ両大国による世界分割に強く反発し、欧州の盟主の地位を担保するために核実験を強行し(1960年)、独自の核武装を完成させる。さらに西側の軍事同盟NATO(北大西洋条約機構)の一員でありながらも、英米による同機構掌握の圧力には強く抵抗し、一時脱退(1959年)にも踏み切っている。また、1964年には、東側と目される革命中国の中華人民共和国を承認し、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの新興途上国に接近する。

 

欧州共同体構想

 ある種の危険をはらむ、こうした大胆な政策決定は、ド・ゴール個人が持つ反共産主義、反アングロサクソン(反英米)的思想性向によるものだが、国民もそれを強く支持した。フランス国民は伝統的に中華思想的な自国中心主義が強く、対独解放戦争の英雄というド・ゴールのカリスマイメージは求心点として有効に働いた。彼も重大政策の決定に際しては、対立意見の調整に手間取る議会での討議より、アルジェリア独立承認の時に見られたように国民投票を重視する直接民主主義を多用することになる。ともあれ、基幹産業の国営化によって、戦争で壊滅的状態だったインフラと産業を立ち直らせたことは事実である。


 一方で、ド・ゴールは祖国と欧州の未来について大きなビジョンを描いている。アルジェリアの独立を経験して、かつて「フランスの栄光」を生み出す源泉となった植民地経営には限界があると見抜いていた。「富は欧州にある」。欧州への回帰だ。隣国の西ドイツ(当時)も敗戦の痛手から驚異的な復興を遂げつつあった。フランスと西ドイツを中心とする欧州経済の重要性に気づき、そして行動する。1963年1月には、ド・ゴールの主導によって、二度の大戦で戦った怨敵の西ドイツとフランスは友好条約を結び関係を改善する。そしてすでに萌芽のあった緩やかな経済共同体の強化に動く。やがて欧州経済共同体(EEC)を経て、準国家的組織として現在の欧州連合(EC)へと発展する。

 

英雄政権の限界

 ド・ゴールの時代はある意味で、復興から発展に向かうフランス社会の過渡期だった。こうした時代には、国民は英雄による統治を求める。英雄も国民に忠誠を求める。途上国における開発独裁の有効性と同じだ。

 
 企業体においても、揺籃(ようらん)期や危機の時代には、英雄的経営者は必要であり、たしかに力を発揮する。面倒な意思決定機関はお飾りで、英雄の決定を信頼して経営を任せる方が効率的だ。


 だが、組織が大きくなり落ち着きを見せても同じことが可能か。いや必要か。やがて英雄の時代に限界が訪れ、民主的意思決定が不可欠となる。 ド・ゴールもやがて舞台を去る時が来る。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『ド・ゴール 孤高の哲人宰相』大森実著 講談社
『フランス現代史』小田中直樹著 岩波新書
『フランス現代史 英雄の時代から保革共存へ』渡邊啓貴著 中公新書

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