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戦略・戦術

第十八話 スタッフが歩いて、書いて、話した数だけ お客が増える老舗米菓メーカー①

中小企業の「1位づくり」戦略

お店から近いお客ほど親しくなれる。

近さと親しさは占有率に直結する。

 

得意客、常連客より新規客の開拓にエネルギーを
使う会社がほとんどだが、植垣米菓は真逆。

 

得意客ほどお客に会い、ハガキでも“間接的に会う”。

全国的に知名度が上がるなか、
あえて会社の近隣を開拓する市場縮小時代の模範事例です。

 

 

●地域に根ざした店

 

「戦時中、ここの社長さんによくしてもらったんですよ」

 

神戸市長田区。

「鴬(うぐいす)ボール」で知られる植垣米菓を
よく知るお客が、そう教えてくれるそうです。

 

工場はもう少し浜寄りにあったこと。

かつては、おかきを一斗缶ごと買う人が多かったこと。

戦時中、植垣米菓のおかげで甘いものを口にできたこと。

お店が閉まっている場合でも、社長の自宅に行って
お願いすれば、快くお店を開けてくれたこと。

 

「とにかく先代にはたいへんお世話になった」と
いう方が大勢いるのです。

 

 

「今現在も、できるだけ地域の方のご要望には応えたいと願っています。
ここ長田区西尻池町の店は10時オープンですが、
『朝9時に寄ってお菓子を受け取り、訪問先に出かけたい』とか
18時には閉店のところ、
『30分くらい遅れそうなんやけど』といったことは日常茶飯事です。

 

まあ、僕自身、このあたりは自転車で配達していたこともあって
顔なじみのお客がたくさんいます。

僕らからするとあくまでもお客さまですが、
お客さまからすれば、僕らはお友達のような感じらしいんです」

 

 

そんな話を教えてくれるのは、植垣清貴さん。
植垣米菓の4代目です。

 

 

同社は1907年(明治40年)に創業。

現在の神戸市兵庫区で米菓をつくりはじめました。

 

2007年で創業100年。

米菓という日本のお菓子にこだわり続け、1世紀が過ぎました。

 

せんべい、おかき、あられなど米菓は新潟県が有名です。

新潟には大手が何社も存在し、
日本中の大手スーパーに大量の米菓を販売しています。

 

米菓の市場は2016年の数字でおよそ3600億円ですが、
上位3社で約50パーセントを占めています。

 

大量に製造、買いやすい価格に設定するため
薄利多売されているのが実態です。

 

植垣米菓はそれら大手とは一線を画す存在。
高級おかき、あられ、せんべいを
兵庫県加古川市にある工房(工場)で製造しています。

 

直営店舗は2ヵ所。
加古川市の『神戸弥奈刀屋(みなとや)加古川直売店』と
神戸市の『神戸弥奈刀屋 神戸直売本店』です。

 

外国人居留地を設け、西洋から持ち込まれた
ハイカラ文化にあふれた神戸。
この神戸で、あえて米菓を選んだのは理由があります。

 

植垣さんいわく、「上質な米と水があったから」。

 

神戸市灘区、東灘区は日本酒の産地として誰もが知っています。
酒は米と水によってつくられますが、米菓も同じ。

おいしい米と水が不可欠ですが、神戸はおいしい米が集まり、
六甲山の天然水を得ることができます。

 

洋菓子メーカーが増えるなか、創業時点から
商品の差別化が行なわれていたといえます。

 

sato18_1.png

神戸弥奈刀屋(みなとや)加古川直売店

 

sato 18_2.png

神戸弥奈刀屋 神戸直売本店

 

 

●近隣でのシェアを高めたい

 

植垣米菓は、自社店舗による直販と、
スーパーや土産物店における間接販売との
二本立てで商品を提供しています。

 

お菓子に限らず、食品は大手スーパーが
市場を席巻しています。

 

であれば、大手スーパーに販売してもらうのも
中小の得策と言えるはず。

 

しかし現実は酷です。

 

スーパーの棚は大手菓子メーカーが幅を利かせ、
売上比率が高い全国ブランド商品に占められています。

 

売上構成比では小さい存在の中小は、
全国の小売店に販路を広げざるをえません。

 

利益は少なくとも出荷数を増やすことで
生き残りをはかろうとする会社が多数存在する理由です。

 

現に植垣米菓でも、スーパーや兵庫県の物産を扱う店、
空港内のショップなど外販での売上が9割近くを占めます。

 

ただし、重点的に力を入れているのは近畿地方。

神戸発祥の知名度を活かして、
近畿でのシェアは驚くほどの高さを維持しています。

 

近年は「秘密のケンミンショー」など
“関西では知られているが、ほかの土地では知られていない”
お菓子として全国的に知られるようになりました。

 

「直営店舗がある地域のシェアを高くしたいと考えました」

 

植垣さんがそう考えるのはもっともです。
来店型の店舗を持っている場合、
店の近くのお客を増やすのが最善の戦略だからです。

 

お客と店とが近いと、次のようなメリットがあります。

 

お客との接点が増えやすい。

お客との対面時間が増えやすい。

お客の顔と名前をおぼえやすい。

店の考え、思いが伝わりやすい。

お客の考えがわかりやすい。

お客のもとへ行きやすい。

お客が来店しやすい。

お客を訪ねる場合、数多く訪問できる。

お客訪問時の移動時間、移動コストの効率化がはかれる。

 

 

お客と店とが近いと、結果的にお客が増えるだけではなく、
利益性がとてもよくなるという成果を得ることができます。

 

小売店や販売店を通して間接的に販売しているメーカーは、
直販を経験すると同じことを言います。

 

お客から直接、喜びの言葉をもらえる喜びを語るのです。

 

販売先が卸売会社や小売店の場合、
もちろんお客である卸売先や小売先の社長、
担当者からお礼を言われます。

 

しかし、メーカーがもっともうれしいのは
エンドユーザーが喜んでいる姿であり、喜びの声でしょう。

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