先月、デンマークのコペンハーゲンで開催された第26回国際アルツハイマー学会(AAIC2014)に参加しました。臨床アルツハイマー病研究の世界的な権威、メーヨークリニックのDr Knopman (ノップマン) 教授とも久々にお会いすることができました。
ミネソタ大学時代に、ノップマン教授とアルツハイマー病患者の記憶のしくみを脳画像で捉える研究をしていました。この結果は、2001年に米国神経学会誌「Neurology」に掲載され、日本でも日本経済新聞に取り上げられました。今から10年以上も前のことです。
その後、アルツハイマー病は、国際的な関心が一層高まり、今年の国際学会では前回に比べて25%も参加者が増加したとの発表がありました。
癌や心臓病から生還した人がいても、アルツハイマー病から生還したひとは一人もいません。
今や世界中がアルツハイマー病の実態を知り、何らかの改善策を探ろうとしています。中国ではなんと900万人以上、米国350万人、日本250万人が認知症と推定されています。米国では、認知症が癌や心臓病を抜いて、国家医療費の第1位になっています。
その時代が、その経営者を創るなら、認知症が国家経営に影響を及ぼす事実も無視できない社会的背景と考えられます。さらには、会社にとっても、社員の認知機能が低下する事実は無視できないはずです。
現状のアルツハイマー病研究が示している根本的な治療法はありません。すなわち、生還するための特効薬はありません。薬物療法も根治療法にはほど遠く、その効果さえも、疑心暗鬼の報告になっています。
そこで、共通のコンセンサスは、予防することで、アルツハイマー病になることを遅らせる事です。認知機能が低下した病的な状態は「Dementia」、痴呆と呼ばれます。「Dementia」になる病気は、アルツハイマー病だけではありませんが、全体の50~60%がアルツハイマー病です。
日本では、「Dementia」は、認知症と呼び名を変えて用いられています。しかし、ここに来て、認知症は使い方が難しくなってきました。
アルツハイマー病の脳病理学の結果からは、大脳白質にβアミロイドが沈着したり、脳細胞にタウ蛋白が蓄積していても、まだ症状の発現がないことが問題になってきました。
そこで、認知機能の低下を早期に発見しようと心理検査をします。すると確かに、軽度の認知機能の低下があるものの、アルツハイマー病にはなっていない前段階の期間として軽度認知機能障害(MCI、Mild Cognitive Impairment)がおよそ2年弱ある事がわかってきました。MRIでは、高性能な装置で海馬を撮影し、CA1という領域の萎縮がエピソード記憶の低下を関連している事が指摘されています。
さらには、「近頃、認知機能がなんか低下したと感じた人」が記憶外来に訪れて検査しても正常な人もいます。実際に、わたしのクリニックでもMRIで検査しても、心理検査をしても正常な人がいらっしゃいます。このようなグループを「Subjective cognitive decline」(SCD)と呼ばれています。「自覚性認知機能障害」と訳しても良いと思います。
ところが、この自覚性認知機能障害のグループの中からアルツハイマー病になっていく発生率が高い事が指摘され始めています。
現時点では、アルツハイマー病に対する特効薬はありません。各国の疫学調査が指摘している明らかな事実、「Physical Activity(身体活動)とCognitive Activity(認知活動)を日頃から向上させることは、認知機能の低下時期を遅らせる」ことを実行することが重要です。
つまり、運動してアタマを使いましょう!そうすれば認知症になる時期が明らかに遅くなると言うことです。手前味噌になりますが、20万部を越えた「脳の強化書」(あさ出版)は、身体活動と認知活動を日頃から向上させる具体的な秘訣が書かれています。
近頃、認知機能がなんか低下したと感じた人もまだまだ、遅くはありません!人生を半歩でももっと楽しくさせる身体活動と認知活動を日常に取り入れましょう。
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「まず、役員の認知機能を検査で確かめよう!」です。
ぜひ、このテーマで、今月を過ごしてみましょう。経営者の脳の健康のために!
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