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59軒目 「名物商品は日々の食事にあり!」

大久保一彦の“流行る”お店の仕組みづくり

平沼 田中屋
(神奈川県)
shikumi59_01.jpg 食事需要とは、日常生活の三度の食事の延長線上の利用動機であり、ご飯や麺類が主体となる食事を意味する。
 外食という行為はもっとも身近なレジャーであり、その外食の中で最も気軽な利用動機として機能するのが食事需要と言えるだろう。
 “お腹が空いた、何か食べよう”というきっかけがあれば、来店につなげやすくなり、お客様作りが比較的な簡単な面がある。
 この食事需要の中に飲食店で成功するかしないかを決める特殊な技があり、私がこうやっていけるのもその技を多用するからに他ならない。
 
 逆に、食事需要の反対の“飲み”需要は、飲酒運転取り締まりの厳格化以降、お酒を飲む利用シーンが駅前立地、宴会、車社会では家呑みと限定的になっている。また、小さな子供のいるファミリーでは、店選びをするときに子供に合わせる傾向があり、飲み需要は取り込みにくい。そのため利用動機が限定的だ。
 マーケットが右肩下がりに直面している外食産業にとっては、幅広い層を取り込むことができる食事需要はとてもありがたい。
 しかし、食事需要の利用動機が気軽と言っても、目の前に人がいなければ、飛び道具が必要になる。
 今回は、昼も夜も人通りのほとんどない横浜の平沼商店に店があるにも関わらず、お客様に支持されて、店内に入ることができないことすらある『平沼田中屋』の秘密を紹介しよう。
 
 田中屋は創業1920年の老舗。早くに父親が他界し、店を継いだ三代目当主鈴木俊弘さんは、「このまま齢をとっても出前を続けられるだろうか」という疑問をもっていた。しかし、当時の蕎麦屋で売上の大半を占める出前をやめることは無謀なことで、周囲の人にも反対された。繁盛店を食べ歩き、35歳のときに、銀行から融資を受け、ビルを建て替えて、出前を辞め、お客様に来ていただくスタイルの現在の蕎麦店に業態変更した。
 
shikumi59_02.jpg リニューアル当初は、セットメニューとして“かつ丼セット”、“親子丼セット”、“天丼セット”をメインに営業した。しかし、これらのどこにでもある商品を売っているようでは、横浜駅から10分とは言え、さびれた商店街で、お客様が多いとは言えない日々が続いていた。
 「この場所までわざわざ来ていただくには、他店にない田中屋でなければ食べられない商品がなくてはいけない」と常に考えていた。
そして、ついに、現在の名物商品「きざみ鴨せいろ」にいきついた。
「きざみ鴨せいろ」は日本蕎麦店の多くがおいしいのに捨てている鴨の脂身をなんとか活用できないか、という業界慣行への逆転の発想から来ている。
 鴨の脂身が凝縮した熱いつけ汁をつけて食べると脂身の香りと味わい口いっぱいにひろがる逸品が「きざみ鴨せいろ」である。
 しかし、「きざみ鴨せいろ」の器はとても小さく、ふつうに蕎麦を入れれば、つけ汁が溢れてしまう。
 案の定、最初に注文いただいたお客様には、「こんな器では汁がこぼえてしまうじゃないか」と苦言をいただいた。鈴木さんは「どうぞ、つけ汁が減るまでそばを数本ずつ入れて、香りを楽しんでいただけますか」と説明をした。
 説明を聞いたお客様は憮然とした表情であったが、食べ終わって帰りしな、「うまかったよ!またくるよ!」と言った。鈴木さんはこの商品が売れることを実感した。
 
shikumi59_03.jpg その実感はあたり、田中屋は名店への道を歩んだ。
 今では、この「きざみ鴨せいろ」売れない日でも70食以上、多い日は100食以上売る。
 鈴木さんの商品開発は、奇をてらっていないのに個性がある。
 それは、あたりまえの商材をベースに、業界慣行で何気なくしていることの中から“独自性”を産み出す。
 何気なくお客様が日常性生活で食べるランチなど日々の糧(私は“餌”と表現している)にうまく他店にない特徴をつける。すると自然に売れ、口コミが広がり繁盛店となる。これこそ食事需要を活用した商品開発の技の極意だ。
 たわいのないやり方で、誰にでもできそうに見えるが、本質をつかむことはむずかしい。経営はシンプルな発想転換にある。もちろん、お客様にも発想転換していただかねばならない。
 鈴木さんはそう教えてくれているように思う。
 

平沼 田中屋
横浜市西区平沼1丁目5番
電話 045-322-0863
 
(→食べログ内ページ)

 

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