本来は赤字であっても減価償却費の計上をしなければ会計的には間違っているのです。
T1期
売上高 1000円
仕入高 800円
経費 200円
減価償却費 50円
営業損失 ▲50円
申告所得 ▲50円
この場合、申告所得がマイナスですから、法人税はゼロです。
T2期
売上高 1300円
仕入高 900円
経費 200円
減価償却費 50円
営業利益 150円
申告所得 150円
この場合、150円を申告するのではなく、T1期の繰越欠損50円を加味します。
150円―50円=100円 これが申告所得になります。
税率を40%としますと、100円×40%=40円が納税金額です。
仮に、第1期が赤字になるから減価償却をしないとした場合、次のように申告所得はゼロになりますから、第2期は、150円×40%=60円の納税金額になり、20円多く納税することになります。
T1期
売上高 1000円
仕入高 800円
経費 200円
営業利益 0円
申告所得 0円
経営上は、減価償却をきちんと計上すべきですが、この場合、納税金額との兼ね合いも大事になってきますし、また、入札や金融機関との関係にもかかわってきます。
入札や金融機関との関係は、経営の根幹の問題です。
しかし、金融機関の考えも知る必要があります。
減価償却費を計上すれば赤字になるから計上しないという会社に対しては、そのままの数字を鵜呑みにはしません。
減価償却をしないで黒字の会社に対して、減価償却費を計上して、正確な決算書に作成しなおすこともあるのです。ですから、金融機関のためにあえて減価償却費を計上しないということは、意味がないと考えた方がいいのです。
後は赤字会社の入札です。
建設業の入札においては「経営事項審査」の点数が大きく影響してきます。経営事項審査とは、日本の建設業において、公共工事の入札に参加する建設業者の企業規模・経営状況などの客観事項を数値化した、建設業法に規定する審査を言います。
点数を上げるため、完成工事高や技術職員数の水増し、粉飾決算などの虚偽申請によって、営業停止処分を受ける企業も多いようです。
建設業以外であっても、経営状況はおそらく入札に必要な何かしらの申請書類に含まれる項目のはずなので、赤字の場合は少なからず入札に影響は受けると思われます。
しかし、最も重要なのは、現在までの実績だと思います。
また、赤字の決算書を黒字に粉飾することは、かえって危険です。公共事業が赤字の場合もあるはずです。
この場合、すべき優先順位は、いらないものを削り、黒字化に持っていくべきです。
また事業そのものも見直し、儲かる仕組みの改善を図るべきなのです。
ちなみに減価償却とは、文字通り、「価値」の「減少」を「費用として計上する=償却」ことを言います。
同じ設備でも、使い方によって価値の減少度合いは異なるはずです。しかし、実務では、税法で定められた「法定耐用年数」で償却計算を行うことになります。
税の公平性という観点から、法定耐用年数を定めているものであり、企業の実情とは無関係なものなのです。
確かに、いちいち、自社の設備等の使用状況から耐用年数が何年かを判断することは容易ではないかもしれませんが、逆に言えば、それくらいのことが判断できないようなら、経営者でないことにもなります。
税理士も法定耐用年数が10年で、自社で勝手に決めた耐用年数が5年だとした場合どうなるか計算をすることでしょう。
取得原価が10万円とした場合、最初の5年間は、5年間償却の場合、1年間の減価償却費は2万円になりますが、税法だと1万円になります。
最初の5年間は、利益は1万円ずつ減少しますが、税金の計算は変わりません。
なぜなら、申告書の別表四で1万円を加算修正するためです。
これが「有税償却」というものです。税金を払ってまでも費用を計上することを言います。確かに、事務手続きは煩雑になりますし、顧問税理士は同じ報酬であれば、なるべく効率的に税金の計算をしたいはずです。
企業の実態を表すのが会計であるならば、5年で使えなくなった設備でも償却をするという税法の方法はおかしいことになります。
別表の加算修正は特別、手間がかかるわけではありません。それ以上に、企業の実態を表していない会計情報で経営をすることの方がリスクが高いことを知るべきです。