其の十
動なるPL、静なるBS
損益計算書はやんちゃなじゃじゃ馬、バランスシートは静かな大人・・・
なんとなく、イメージできるのではないでしょうか。
損益計算書とバランスシートの関係は次のように考えることができます。
商品の販売を考えてみます。
資産(在庫)を手放して費用(売上原価)になり、その費用が犠牲となり、収益(売上)を生む。そして資産(現金預金か売掛金)が増加する。
なんとなく、損益が先行し、そしてバランスシートがそれに追随する。そんな感じです。
日々の動きは、損益(資金も含む)に現れ、そして、その結果、バランスシートに影響していくと考えてもいいかもしれません。
その意味で、損益計算書は「動」、バランスシートは「静」なのです。
静かにしていれば周りが見えるものだといつも思います。自分も一緒に騒ぐと、今、自分の周りで何が起きているのかを見失うことになるからです。
相手が感情的になっているときこそ、こちらが感情的になってしまっては何も解決しないのです。
日々、ばたばたしている損益(資金を含む)を追いかけるより、静かなバランスシートを見ることで、冷静な判断ができることと同じです。
其の十一
静のバランスシートが牙を剥くとき
バランスシートは普段はとても静かです。だから、沈黙の決算書ということが出来ます。しかし、ある時、音をたてて、牙をむいてきます。会社の場合、倒産です。個人では破産です。
沈黙のバランスシートが音をたてて牙をむいてくる前に、魔法のバランスシート、つまり収益をもたらすバランスシートを獲得することが大事です。
どんな時代でもバランスシートがしっかりしていますと、少々のことではぐらつきません。厳しい時代だからこそ魔法のバランスシートを持っていてほしいと思います。
ところで、なぜ、倒産するのでしょうか。
それは、お金がなくなるからです。
では、なぜ、お金がなくなるのでしょうか。
それは、お金の使い方に問題があるからです。
黒字倒産、つまり利益が出ているのに資金がなくなり倒産することがあり、倒産する企業の半分以上は黒字倒産といわれているほどです。
黒字倒産は、入金より支払が早い。または予定していた入金がなく、支払はある場合におきます。
そんなことは、正直、当然のことです。
入金と支払のバランスが悪いこと以上に深刻な事情があります。それがお金の使い方です。突き詰めますと、結局、誰と付き合っているかになります。お金は人に出しますし、お金は人が持ってきます。
私は、会社の決算書を拝見する際、真っ先に、バランスシートのある勘定科目に着眼します。
それは、「仮払金」「立替金」「貸付金」「投資」です。仮払金の中身は、通常、月末までに未精算の旅費です。ここでは、そのような仮払金は問題にはしません。それ以外の仮払金です。
月次の試算表を並べて見ますと旅費等の未精算の仮払金のみであれば、必ず、どこかの月末では残高がゼロになるものです。
しかし、これからお話をする仮払金があれば、ずっとゼロにはなりません。
こんな経験があります。鉱山関連事業を行っていた際、監督官庁等との調整が難攻していた際、ある人物がきて「わしに任せておけばすべて上手くいく」といい、いわゆる前裁き金を要求してくるのです。
紹介してくれた人を立てなければならないという事情もあり、資金提供をしても何も進展はありません。それどころか、更に要求してくるのです。しかも、その方の背広は新調されており、渡したお金で購入したことが見え見えなのです。
このような人は、絶対に、領収証は発行しないため、仮払金として処理するしかないのです。
このような内容の仮払金があるということは、領収証を切れない人とつきあっているということが想定できるのです。
立替金は、社長以外、一体、誰の支払の立替をしたのでしょうか。通常は、回収できません。
貸付金も同様、回収は困難です。
要するに、事業と無関係な人とつきあっている勘定科目なのです。
では、投資はどうでしょうか。売却すれば現金になる為、問題はないといってもいいのでしょうか。
しかし、投資は別の意味でNOになります。特に株式投資やFX投資はNOです。
なぜかといいますと、投資は、自分である程度コントロールできるものに限定しなければならないからです。例えば、不動産投資、金投資、銀、事業投資などです。
これに対して、株式投資は、コントロール不能です。株価が上がっても下がっても、精神的に揺さぶられるものです。
ちなみに不動産投資は4種の収入があるといわれています。
①賃料―経費 不動産の基本的な儲けです。次に②収入から差し引かれる減価償却があり、目に見えない収入ともいわれます。そして③ローン返済は物件の借り手が支払ってくれます。④最後に、値上げ益、いわゆるキャピタルゲインです。
しかし、不動産投資も安全ではありません。千三つといわれているように、まともな情報は1000のうち3つ以下かもしれません。
経営者は、総じて、投資は控えるべきであり、経営に全神経を集中させることがやはり大事です。