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税務・会計

第17号 急成長のわな

会社を守り抜くための緊急対策

 急激な売上増加は、売掛金などの売上債権、買掛金などの仕入債務、そして在庫の増加をもたらします。
 回収が遅れることによる資金繰り悪化も、いざというとき、金融機関は貸してくれないものです。そのため、急成長は倒産への第一歩であることは、経営の常識になっていることです。

◆不正はやめられない
 私ごとで恐縮ですが、20数年前、最初の会社を設立したとき、未だ鮮明に記憶していることがあります。
 当時、会う方から、必ずといっていいほど聞かれていたことが3つありました。その3つとは、①売上、②資本金そして③社員数です。
 まだ20代だったこともあり、会社として認めてもらう為には、この3つが大きくなければならないと叩き込まれたような気がしたものです。
 そのため、別に上場等意識しなくても、やはり、売上の規模の拡大は、経営者として必要条件と日々思っていたのです。
 社員数も同じです。しかし、社員が増えれば、それに比例して売上が増加するわけではなく、結果的に、人件費の固定費化で資金的に苦しくなっていきます。
 人が増えれば、事務所の規模も拡大しなければなりません。人件費と家賃という固定費には、常に、悩まされ続けました。
 それでも、相変わらず人は先ほどの3つを聞くため、それに回答をすることで、正当化していたような気がします。
 上場を考えない中小企業ですらこれですから、上場を考えている会社にとって、売上増加は絶対条件になってきます。
 最近では少なくなったのかもしれませんが、数年前までは、とにかく売上を上げるためにしてはいけないことをやっていたものです。
 それは、実体のない売上を作り上げることです。どのようにして売上を作るのでしょうか。形式は取引があるかに見えますが、実態がない取引をします。これは循環取引と言われているものです。
 実態のある取引は、A社→B社→C社→D社というように、メーカーから卸売、小売、エンドユーザーに商品が流れ完結します。この商取引に参加するB社やC社は在庫リスクや信用リスクを負って商取引を行うため、その見返りとしてマージンを得ることになります。
 一方、循環取引は,あたかも通常の取引であるかのように装って,帳簿上だけで仕入及び売上計上することを目的としています。循環取引のポイントは、実態のある取引のような起点(A社)と終点(D社)の業者がいない点です。
 A社→B社→C社→D社→A社・・・。まさに、D社→A社との取引が成立したとき、循環取引になります。この流れに従い一定の利益を付加しながら各社に売上・仕入が計上されることで、売上と利益が嵩上げされることが循環取引の目的なのです。
 取引対象の商品がなくても循環取引を行うといった悪質な場合もあります。循環取引を継続していく中で、どうしても避けて通れないことがあります。それは、その性質上、取引金額が高額になってしまうことです。
 そして、仮に循環がストップすれば、最後の業者が巨額の損失を蒙ることになります。
 B社やC社はこの取引が循環取引かどうか、なかなか判別できません。しかし、必ず、兆候は表れます。それは、先ほど言いましたが、一般的には、取引金額が多額になっていきます。そうしますと、循環取引に参加している業者の中から、支払いが遅延したり、金額が多額になってきたため、取引先を変更することがあります。
 首謀者は、取引停止の影響の大きさを恐れるようになりますが、止められなくなっていきます。
 ここが不正の怖さです。不正については、専門家が絡むことが多いため、この点については別のところでお話ししますが、一度、手を染めるとなかなか抜けられなくなります。

◆売上と金融機関
 このような循環取引は極端な例かも知れませんが、企業は、やはり売上を上げたいのです。理由は様々です。
 金融機関から借入を行い、また、これから借入を行おうと考えている場合、貸し手は売上の減少を極端に嫌うため、借り手は何とかして売上を作る必要に迫られます。
 ただ、売上の増加は必要であるとしても、急激な売上増は、逆にリスクであると貸し手は判断しますので、金融機関のために急激な売上増加を必要とすることは考えづらいかもしれません。
 ちなみに貸し手は売上減少を嫌います。しかし、経営には、売上が下がる場合もあるはずです。可能かどうかは別として次の様に考えることも必要です。
 「売上が下がった」ではなく、「売上を下げた」と。
 売れば売るほど、損をする商材もあるはずです。しかし、売上を作るためにどうしてもやめられません。しかし、結局は、資金繰り悪化を招きます。
 売上重視は経営者であれば当然のことですが、それ以上に、売上総利益、通称、粗利益の増大がもっと重要になります。
 粗利益率の低い商材を販売するより、粗利益率の高い商材をより多く販売した方が、たとえ売上が減少しても、粗利益が増加することもあり、また、経費の削減にもつながり、営業利益が増加することもあり得ます。
 たとえば、薬局を考えてみましょう。お客様がテレビCMを見て、自分で棚から薬を取って購入する場合と、薬も必要ですが、ビタミン補給がもっと大切だと説明して、ビタミン剤を販売した方が粗利益が増加します。
 よく、レストランや居酒屋において、店長おすすめのメニューがあります。たしかにおいしいのかもしれませんが、通常、おすすめ品の方が、他のものより、粗利益率が高いものです。
 コーヒー専門店で、みんながジュースを注文したら、確実に、コーヒー専門店はつぶれるでしょう。本業のコーヒーの粗利益は高く、ジュースの粗利益はかなり低いからです。

◆急成長へのブレーキとなる指標がない
 売上が好調な時は、とかく損益計算書ばかり目が行くものです。前年同期○%増になれば誰だって喜びます。社員も給料が上がるかもしれないと期待を膨らませます。
 では、損益計算書だけを見て喜び、給料を上げてもいいのでしょうか。現金商売の場合は、売上増加が直接、資金不足に繋がることはありません。
 しかし、この場合でも絶対ではありません。現金商売で売上が増加していきますと会社に現金預金が残ります。
 社長は、やっと過去のつけが支払えると考え、これまでのつけをせっせと支払う行動を取ることもあります。少しでも早く楽になりたいからです。
 売上増加はいつまでも続くことはありません。たとえ、現金商売であっても、売上が減少していけば、そして、社長が過去のつけを支払う行動を取ってしまえば、会社の資金が枯渇します。
 少しでも早く楽になりたいと思う気持ちは痛いほどわかります。しかし、大盤振る舞いする必要はありません。
 社長は、自分が楽になりたいという気持ちを隠して、少しでも早く支払わないと信用がなくなるからと、早期に過去のつけを清算することを正当化していきますが、資金余剰ができたとしても、きちんと計画通り支払うのであれば、そんな簡単に信用を失うことはないはずです。
 ここでも、社長の大盤振る舞いの行動を制御するための資料が必要になってきます。また、急成長して、入金が遅れますと黒字倒産になりかねません。この場合、急成長を制御するための資料が必要です。
 それがバランスシートです。
 特に急成長しているときの損益計算書のことを暴れ馬ということがあります。急成長の是非を冷静に判断するためにバランスシートが必要なのです。バランスシートにより暴れ馬を沈静化させなければなりません。
 特に連結バランスシートの現金預金と短期支払い債務のバランスを常に意識しておくべきです。
 売掛金増加は、将来の入金には違いありませんが、もしかしたら、貸し倒れになることもあります。特に急激な増加の場合には注意が必要です。十分な信用調査をしないことも多々あるからです。
 短期的な支払いを連結バランスシートの現金預金で賄える状況を常にしておく必要があります。このバランスが崩れることが想定されるのであれば、支払いを遅らす必要があります。
 連結バランスシートにより、社長が少しでも早く楽になりたいため、過去のつけを一気に支払ってしまうことを制御できるのです。

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