●経営効率を追求しつつ、顧客満足も重視する独自の経営手法
サービス業のジレンマ。それは顧客満足を追求するとコストが掛かって経営効率が下がり、逆に経営効率を高めれば高めるほど顧客満足が低下して顧客が離れてしまうという問題だ。
このジレンマを独自の取組みで解決し、売上高249億700万円(2015年3月期)店舗数116店(2016年4月現在)に成長した企業がある。それがスーパーホテルだ。
スーパーホテルは1989年12月に大阪西区で創業し、僅か20年で平均稼働率90%、リピート率72%を誇り、「最も予約の取りにくいビジネスホテル」に成長した。
スーパーホテルがサービス業のジレンマを解決した方法は、4つある。
<①ITを駆使したコスト削減>
チェックインの際は、顧客が自らタブレット端末にデータを入力する。入力された顧客データは記憶されるので、次回以降入力する手間はなくなる。精算はチェックインと同時に自動精算機で済ませるので、チェックアウト時にフロントに並ぶ必要はない。また部屋のカードキーはなく、精算時に暗証番号が記載された紙がプリントアウトされ、この番号で入室する。こうした取組みにより、同社は大幅にコストを削減できた。
<②快適な睡眠を徹底的に追及>
同社は大阪府立大学と協働して快適な睡眠を科学し、室内の照明を月明かりと同じ30~40ルクスにし、部屋の湿度を保ち消臭効果のある珪藻土を天井の素材に使用。部屋のドアの密封性を高めて静寂性を向上させ、枕は8種類の中から顧客が選べるようになっている。室内では靴を脱いで寛げるように、靴を脱ぐ境界線のラインが客室内に引かれている。
<③スタッフの声を反映した施策の導入>
スタッフの提案により、脚がないベッドを採用してベッド下の清掃作業をなくす工夫がなされ、ベッドが低くなったことで部屋が広く感じる効果が出た。また天然温泉の大型浴場を導入により、部屋風呂の水道代を削減している。
<④将来独立を希望する夫婦を採用>
ホテルの支配人と副支配人には、将来独立して事業を行う意欲のある夫婦を審査した上で、3年契約で採用。彼らはホテル内に居住し、家賃や光熱費は会社が負担している。この施策により企業側は良質な労働力が確保でき、労働者側は独立に必要な開業資金を蓄えることができる。
●ビジネスユースに特化し、人材採用も独自の方法を生み出した
スーパーホテルはビジネスで利用するユーザーニーズに特化して各種施策を考え、同社の強みを発揮した。その結果、宿泊料金に制約がある中で寛ぎと快眠を求めるビジネスマンの取り込みとリピーター化に成功している。
現在サービス業は深刻な人手不足に直面しており、有能な人材の確保が急務となっているが、どの企業も有効な手立てを見つけられずにいる。
その一方、スーパーホテルは従来の終身雇用制度、あるいはアルバイトや契約社員による低コスト運用ではなく、3年間という期限を設けて独立志向のある夫婦を採用するというユニークな人材採用方法を生み出した。
企業の自己本位でない雇用形態の開発は、他社も参考にできる発想だ。
<「スーパーホテル」の事例に学ぶこと>
多様な人たちが利用するシティホテルや、長時間客室を利用することが多くなるリゾートホテルと違い、出張でビジネスホテルを利用するビジネスマンが求めるのは「手間いらず」「安価」「快眠」「立地の利便性」などに集約できる。
市場と顧客を絞込み、必要とされるサービスと機能に特化する方法は、他の業態にも活用できる視点だ。