一国の中央執行部の人間が、毎月こうした勉強会に参加し、知識を高める努力を続けているというのは、世界的に見ても前例がないといっていいのではないだろうか。
胡錦濤総書記は、第一回目の勉強会の席上で次のように話している。
「現代社会において、各分野での発展は日進月歩である。また、人民大衆の創造は多様で多彩だ。人類社会が創造した豊富な知識を吸収し自分たちを充実させていかなれければ、各レベルの幹部たちは必ず落伍し、課された重責に応えることができない。
自らの職責に値する指導者や管理者になるためには、勉強に力を入れなければならないことを理解すべきである」中国国内だけの知識だけでは十分でなく、外国の先進的な理念も取り入れる必要がある。
外国のものであれ、良いものは積極的に取り入れる。一期目の胡錦濤政権は、こうした「知的武装」を行うことで自分たちの弱点を補うことに成功した。言い換えれば、リーダーとしての器は「知的武装」によって大きくなったのだ。
02年12月から07年9月までの合計44回の政治局勉強会でテーマとなった内容を見れば、中国執行部がその時どきで何を重要と考えていたのかを窺い知ることができる。
例えば、07年8月28日に開かれた第43回目の勉強会は、テーマが「世界金融情勢とわが国の金融改革」。講師は国務院直轄のシンクタンクである国務院発展センターの教授と銀行業監督管理委員会のシニアアナリスト。
この時期に金融をテーマに選んだのは、アメリカのサブプライムローン問題が発端となってアメリカ発世界同時株安が起きたからである。このところ、金融リスクが世界的に増大している。
もしアメリカで金融危機が起きれば、中国の不動産や株式市場にも大きな影響を与え、バブルが崩壊する可能性が一層高まる。中国としては、そうなる前に対応策を考える必要がある。
勉強会では金融リスクをどのように回避すべきか、金融改革をどのように推進していくべきかが議論される。
勉強会の締めくくりとして、胡錦濤氏は、一人ひとりが危機感を持つことが大切だとし、「居安思危」(平時に有事を念頭に危機対策を徹底する意味)の意識が必要だと主張した。
また同時に、国内の金融・資本市場の改革を加速させるよう指示を出したという。その後の一年余り、中国銀行業監督委員会は中国の銀行を対象に6回にわたって、アメリカのサブプライムローン問題に関する金融リスクの注意報を出していた。
中国の金融機関がアメリカ発の金融危機の影響を最小限に抑えることに成功できたのは、この政治局勉強会の開催および中央執行部の強い危機意識と迅速な危機対策に負うところが大きい。
胡錦濤総書記を中心に、執行部幹部の一人ひとりが危機意識をもって勉強し、政権運営を行ってきた。一期目の5年間、胡錦濤政権は安定的に政権運営ができたのは、こうした政治局勉強会の影響が大きいといえる。
二期目に入った胡錦濤政権は、今も政治局勉強会を定期的に開催し「知的武装」を続ける。
一国の政府首脳であろうと、一民間企業のトップであろうと、共通の課題は安定的な組織運営ができるかどうかにあり、その統治能力と危機管理能力が常に問われている。
政権担当の経験も実績もない民主党政権は鳩山内閣から菅内閣に変わったが、菅内閣は自分の器を拡大するためにも、政権運営能力を高めるためにも、胡錦濤政権の「知的武装」に学ぶところは多いのではないか。