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人間学・古典

第38講 「言志四録その38」
得意のときは言語多く、逆意の時は声色を動かす。皆養の足らざるを見る。

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学

【意味】
得意の時は言葉数が多く、失意の時は声の様子にも動揺が現れる。
これらは修養が足りないからである。


【解説】
人間の顔には5つの穴が在ります。
その中で、心に一番近くしかも大きな穴が口ですから、心の状態をさらけ出し易いのが特徴です。
口の慎みの無さが心の慎みの無さに通じて、修養の未熟さを露 呈します。

欧米からやってきたポジティブ・シンキングの威を借りて、「元気よく、前向きに!」と言いながら、
大きな声で終始無駄話の似非元気印が、皆さんの会社にも 見受けられませんか?
こういった人ほど好不調が言葉や行動に表れやすいものです。
その場の付き合い程度ですと楽しい相手ですが、付き合いが長くなると本性が露呈して人が遠ざかっていきます。


東洋思想は基本的には農耕民族の思想ですから、『地道に蓄(たくわ)える』ことを美徳としています。
これは、農作物の蓄え・お金の蓄え・修行の蓄えにしろ、皆同じです。
もちろん掲句のように言葉についても同様のことがいえます。
知識や修行の成果を充分に蓄える前から、言霊として体外に無造作に吐き出しているようでは、
何時までたっても一流の人物にはなれません。

こういったレベルの人物の特徴は、調子の良い時には心の慎みを
忘れて口数が多くなり、失意の時には言葉が少なく元気もなくなります。
『人物のレベル⇒その者の心のレベル⇒口数の多寡』となりますから、掲句でも「皆養の足らざるを見る」となります。


このように「心と口の相関関係があるから、無口を心掛けなければ・・・」と
単純に考えるようでは、人間学を学ぶ者としては洞察力不足の二流人間です。
逆に心と口の相関関係があるならば、口を使って心を鼓舞させることを考えることも人間学の活用例のひとつです。

一般に継続力不足の体験から、誰もが「心は壊れやすいものだ!」
と思い込み、決意や志を持ち続けることは困難だと考えます。
しかし壊れる前のヤル気満々の立派な心は、誰が創り出したかと考えれば、
「心は極めて創り易い素晴しいものだ!」となります。


私が学園長を務める名古屋大原学園には、TES手帳という人間学のヒントが一杯詰まっている学生手帳があります。
その中の一つに「100回口述歩行法」があります。
資格試験や公務員試験の勉強でヤル気がなくなってきたら、
毎日歩きながら100回「○○試験に合格するぞ!」と叫ぶ方法です。
純粋な20才前後の若者には素晴しい効果があります。
世間の皆様が「資格合格の大原」「公務員合格の大原」とかなり評価してくれていますが、
これなどは口を使って心を鼓舞する代表的な方法の一例です。


何回も申し上げますが、『人間学とは、自分の人間性能を工夫向上させる学問』であることを忘れてはいけません。

 
 
杉山巌海

第37講 「言志四録その37」老人の一話一言は、皆活史なり。前のページ

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