【意味】
宰相寇準は、周りの人々にはよく奢り、自分では質素倹約に努め、音楽や異性の楽しみも味わうことがなかった。
【解説】
「宋名臣言行録」の言葉で、名宰相寇準の金の始末と人間性を述べたものです。
論語にも「奢なれば不遜なり。倹なれば固なり。その不遜ならんより寧ろ固なれ」とありますが、贅沢が過ぎれば謙虚さが欠けて不遜になり、倹約が過ぎれば頑固さが増します。どちらがよりましかと問われれば、不遜よりも頑固な方がよいとのことです。
現代社会は様々な誘惑が多いことから、経理責任者には酒・異性・博打などに溺れない人物が適任といえます。一時的に自分を忘れる恐れのある者に、会社の大切な金を扱わせるわけにはいかないからです。
更にいえば、有能な目先人間よりも、少々融通が利かない始末屋が適任となります。なぜ目先人間が不適切かといいますと、この種の人間はあれこれ推測して先買いに走るからです。
「半年先を買うな!」とありますが、例えば単価の低い塵取や箒を買う際に「大した金額ではないから、年末の大掃除に備えて購入しておこう」の繰り返しになってしまいます。
普段から不思議にと思っていることに、自家用車の買い替えがあります。自動車に限らず製品の性能は年ごとに向上しますから、旧車と同程度の性能であればワンランク安い車でも十分のはずです。しかし新車購入者は旧クラス以上の車を購入するのが常です。車のセールスマンも巧みに購入者の欲望と見栄を刺激するからでしょうが、日頃損得に敏感な現代人がより高価な車を購入してしまうのは、大変不思議な現象です。
一昔前の風刺作家は、「商売は、貧乏人を相手にせよ!」と述べていますが、なかなかの名言です。貧乏人は物欲を始末できなく財布の紐が緩いから、商売が成り立つということです。多くの人々は稼ぎが少ないから貯まらない主張しますが、欲望を刺激され財布の紐が緩いことが貧乏になる主要原因でもあります。
会社交際費が増加すれば、会社の風紀は低下します。一般に社長や幹部は交際費を使う際に会社の経費算入を考えますが、掲句の寇準宰相のように可能な限り身銭を切りたいものです。交際費ぐらいで金銭品性を落とし、部下からの評価を下げては勿体ないからです。
トップや会社幹部になれば、年間所得の2~3%は年間個人交際費として使う痩せ我慢をしたいものです。明らかに上司の自腹となれば奢られた部下も感謝をします。これとは逆に、上司が会社の経費で落とすとことが分っていながら、上司個人の奢りのような態度を示されると、折角奢ってもらいながら上司の人間性に不信を持ってしまいます。
人間学では「人・金・位の別れ際に品性が露呈する」(巌海)といいますが、男女の別離・金との別離・地位との別離がきれいであれば、一流人物と思って間違いありません。