賃金管理研究所 所長 弥富拓海
今回は責任等級制における昇格昇進者の選考について説明いたします。年功を重ねれば、順番に昇格できるとする資格制度もありますが、職制準拠の責任等級の場合、より重い責任の仕事を担う昇進と等級が上がる昇格は同時が原則です。
責任等級における昇格昇進とは、これまでの仕事の成績が高く評価され、さらに責任ある仕事を任されることです。身分として偉い人になれることを意味する訳ではありません。つまり能力主義は昇格昇進者の選考にこそ貫かれていなければいけないのです。
昇格者を選ぶということは明日のわが社を委ねるべき実力社員を選んでゆくことであり、役割責任を担うにふさわしい経験と仕事力を身につけ、上位等級でもリーダーとして信頼され、十二分に仕事力を発揮し、活躍できる人を候補者としなければならないのです。
いくら高学歴で良い人だと言っても、職責を全うできないような人(上位等級での仕事の成績が「良=B」ではなく「可=C」となる可能性が高い)を勤続が永いから、順番だからと温情で要職に登用してはならないのです。
責任等級制の場合、昇格候補者の選考に当たっては等級別標準昇給図表を重要ツールとして用います。この昇給図表上に候補者を現号数(縦)と年齢(横)でプロットし、定められた昇格要件を満たしているかを視覚的に確認します。
昇格昇進の対象者であることを図表上に描かれている昇格基準線、加えて次回の昇給で基準線を超える位置(昇格候補者ゾーン)にいることを確認し、昇格候補社員をリストアップします。さらに以下3つの要素の判断を加えて適任者を絞り込むことになります。
①ともに同年齢の場合には、より高い号数にいる者を優先する
②ともに同一号数の場合は最近の昇給評語の優れている者を優先する
③昇格要件を満たし、昇給評語もほぼ同じ場合にはより若い者を優先する
上位等級への人材登用は経営的判断を伴う重大事項です。職種適性等も考慮すれば、ズバリ言い切るほど単純ではありませんが、昇格基準線を超えた位置に経験豊富なベテラン社員がおり、同時に将来の可能性を確信させる若い優秀社員が昇格候補者ゾーンに達しているとしましょう。精鋭組織を維持するために、候補者を一人に絞らなければならない場合、いずれの社員を登用すべきでしょうか。
昇格のための要件を等しく満たしている2人であれば、先ずは若い社員を候補者として検討すべきです。なぜなら若い社員を選んだ時の方が上位等級での活躍期間が長いからであり、さらに幹部の仕事に挑戦させる機会を設定できるからです。
昇格昇進者を選ぶことは明日のわが社の責任者を選ぶことであり、真の能力主義は妥協なく昇格候補者の選考に貫かれていなければならないのです。
限られたコラムの文字数では十分に説明しきれるテーマではありません。等級別標準昇給図表の使い方を含めて詳しく知りたい方は、遠慮なくお問い合わせください。担当コンサルタントが的確にお答えいたします。