賃金管理研究所 所長 弥富拓海
15歳以上65歳未満の生産年齢人口は1995年の8,726万人をピークに、以降は減少が続き、2016年には7,665万人となりました。この22年間で1,061万人も生産年齢人口は減ってしまいました。15歳を迎える若者は減り続ける一方、65歳以上の高齢者人口は加速度的に増えています。求人は増えても、生産年齢人口は年ごとに減少していくのですから、慢性的な人手不足はさらに深刻さを増し、人材採用の難しさはこれからも進みます。
「就労人口減が現実だからこそ、労働参加率を高めねばなりません。長時間労働を是正し、老若男女、誰もが自分のライフステージに合わせた働き方を選択できる社会をつくっていきたい」と安倍首相は「働き方改革」を主張し、衆議院選挙で大勝しました。
たとえ少子高齢化が避けることのできない事実であっても、国力を維持し続けるためには、労働力不足の解消がカギであり、対応策の必要性を政府は説いています。
●働き手を増やす(労働市場に参加していない女性や高齢者)
●出生率を上げて将来の働き手を増やす
●労働生産性を高める
いずれを採っても難題ですが「働き方改革」の大目的を実現するために、政府は3点の課題克服策を提案しています。
①長時間労働の改善
法改正による時間外労働の上限規制を導入(特別条項に関する法律を見直す)。1ヶ月100時間2~6カ月平均を80時間に制限する。加えて勤務終了後、一定時間以上の「休息期間」を設ける勤務間インターバル制度導入に向けた環境整備が進んでいます。これらの対策は労働者を早めに家庭に帰すことでもあり、労働者が十分な生活時間を確保でき、健康に働き続けることができるだけでなく、家庭円満、出生率の改善、少子化対策としても効果が期待できます。
②正規・正社員の格差解消の施策
ライフステージに合わせた働き方を選べるようにする。そのためにも労働力の4割を占める非正規層の待遇改善は必須であり、同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインを整備し、将来的には非正規という枠組み自体をなくすという提案です。
③高齢者の就労促進施策
65歳以降の継続雇用延長や、65歳までの定年延長を行う企業に対する支援策として、助成金制度が設定されています。
以上が安倍内閣の進める「一億総活躍社会」の姿です。慢性的な人手不足の進行は中小・中堅企業にとっては一大事です。企業は求人に加えて、正規、非正規を問わず退職者を減らしたい。育児や介護と仕事の両立、ライフステージに合った働き方を認めてでも人手を確保したい。老若男女、多様な働き方を認め合い、補い合える職場づくりを本気で目指す企業は増えています。
厚生労働省は生産性の向上、離職率の低下、人材不足の解消に取り組む中小企業事業主を支援する目的で「65歳超雇用推進助成金」「職場意識改善助成金」「キャリア形成促進助成金」などの助成金を設定しており、実際に活用している・申請を検討している企業は少なくないようです。