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第135話 「李克強指数」で中国の景気回復を検証する

中国経済の最新動向

 中国経済の回復は力強さを増している。これはGDP成長率構成要素である輸出、投資、生産、消費のみならず、「李克強指数」と呼ばれる鉄道貨物輸送量、銀行融資残高、電力消費など3つの経済指標にも裏付けられる。

 

年初来の3つのプラス転換

 今年8月に中国経済は3つの年初来のプラス転換を実現した。まずは消費のプラス転換だ。8月全国小売総額は前年同月比で0.5%増、7ヵ月連続のマイナス成長に終止符が打たれ、今年初めてプラスに転換した。

 

 2つ目のプラス転換は1~8月輸出の累計だ。今年8月、人民元ベースでの輸出は前年同月比で11.6%増(ドルベース9.5%増)、7月の10.4%増に続き2ヵ月連続で2桁増を実現。1~8月の累計では0.8%増となり、これも今年初めてのプラス転換となる。

 

 3つ目のプラス転換は工業生産である。8月に全国工業付加価値増加額は前年同月に比べ5.6%増え、伸び率が7月の4.8%より拡大した。1~8月累計では0.4%増となり、年初来初めてプラス転換を実現した。

 

 このほか、インフラ、設備、不動産を含む固定資産投資は、1~8月累計で前年同期に比べ0.3%減、まだマイナス圏を脱却していないが、前月比では既に5月よりプラスに転換し、8月に4.2%増と、4ヵ月連続で増え続けている。

 

 要するに、GDP成長構成要素のほとんどはプラス転換を実現し、経済成長の回復が確認された。

 

「李克強指数」による検証 中国の景気回復が本物だ

 過去の中国地方政府統計部門は、度々GDP統計に水増しを行い、その信ぴょう性が疑われていた。そのため、李克強首相は遼寧省書記在任中、同省のGDP統計を信頼せず、水増しができない鉄道貨物輸送量、銀行融資残高、電力消費量など3つの経済指標を見て景気判断を行った。2007年、遼寧省書記だった李克強氏は、当時の米国大使と会見した際、次のように述べる。「私は(遼寧省の)GDP統計をあまり信頼せず、遼寧省の経済状況を見るために、省内の鉄道貨物輸送量、銀行融資残高、電力消費の推移を見ています」と。

 

 2010年英「エコノミスト」誌は、李氏が信頼した鉄道貨物輸送量、銀行融資残高、電力消費量など3つの経済指標を「李克強指数」と名付け、中国経済を推し量るための指数とした。シティパンクなどの国際金融機関もその可用性を認めている。

 

 次は「李克強指数」を使い、中国の景気回復が本物かどうかを検証する。まず鉄道輸送を含む全国貨物輸送量を見よう。2008年以降、中国は高速鉄道のほか、高速道路や空港・港湾などのインフラ整備に注力してきた。そのため、鉄道輸送のほか、道路輸送、水路輸送及び空運も急増している。従って、鉄道貨物輸送量に比べトータルの貨物輸送量がより正確に経済の動きを反映するものと思われる。

 

 今年8月、中国の鉄道貨物輸送量は前年同月比で6.5%増、港湾貨物輸送量が7.2%増。海運・陸運・空運を含む全国貨物輸送量が4.8%増、4ヵ月連続でプラス成長が続いている。

 

 特に、中国から米国向けのコンテナ輸送量が急増している。「日本経済新聞」9月14日朝刊記事によれば、今年8月にアジアから米国へのコンテナ輸送量が前年同期比10.6%増の167万5313TEUにのぼる。うち、中国は19%増の106万8257TEUで、アジア全体の63.7%を占める。19%増は中国税関が発表した8月対米国輸出20%増という数値とほぼ一致している。

 

 銀行融資も大幅に拡大している。8月に人民元ベースの銀行新規融資は1.28兆元にのぼり、前年同月に比べ694億元が増えた。8月末までの銀行融資残高は167兆元、前年同月比で13%増となっている。銀行融資の増加は経済活動の下支えとなっている。

 

 最後に電力消費量を見よう。今年8月、全国電力消費量は前年同月に比べ7.7%増。そのうち、第一次産業12.1%増、第二次産業9.9%増、第三次産業7.5%増で、全産業分野の経済活動の活発化が裏付けられる。なお、1~8月電力消費の累計も前年同期比0.5%増となっている。これも1~8月工業生産0.4%増という数値とほぼ一致している。

 

 以上に述べたように、貨物輸送量、銀行融資残高、電力消費量など「李克強指数」と呼ばれる3つの経済指標から見ても、中国経済はコロナ禍から急速に回復していることがわかる。

 

国際機関は相次いで中国経済見通しを上方修正

 急速な景気回復によって、中国経済は4~6月期3.2%成長を実現し、G20主要国の中で唯一プラス成長を遂げた国となった。

 

 7~9月期も中国経済は成長の勢いを保ち、成長率が5%を上回ると筆者は見ている。通年の成長率は2%を超えると思う。

 

 国際機関も今年中国経済の見通しを相次いで上方修正している。経済開発協力機構(OECD)は9月16日に、2020年中国経済見通しを前回の▼2.6%から1.8%へと上方修正した。世界格付け機関のムーディーズは1%から1.9%へ、フィッチは1.2%から2.7%へと、それぞれ中国経済見通しを上方修正。スイスのUBSグループも今年の中国経済を従来予想の1.5%から2.5%へと修正した。これらの国際機関は来年の中国経済見通しも相次いで上方修正している。

 

 中国経済の見通しが明るくなっているため、海外からの直接投資も増えている。中国国家統計局の発表によれば、今年1~8月、外国からの直接投資は前年同期比で3.8%増、香港・マカオ・台湾からの直接投資は4.5%増となっている。(了)

 

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