■天然の滝壺が湯船
サウナのような猛暑が恨めしい夏真っ盛り。温泉よりも川遊びで涼をとりたいという人も多いだろう。だが、日本には入浴と川遊びを両方楽しめる温泉がある。今回は、秋田県の山中に湯煙をあげる秘湯を紹介しよう。
川原毛地獄に湧く「川原毛大湯滝」。その名から想像できるだろうが、温泉が流れる大滝である。
川原毛地獄は、青森県の恐山、富山県の立山とともに「日本三大霊地」と呼ばれる霊場。灰色の溶岩に覆われた山肌には草木が生えておらず、いたるところから白い蒸気が噴き出している。周囲には90℃を超える温泉が湧き出しており、強烈な硫黄臭も漂っている。地球が呼吸しているような姿に、底知れぬ大地のパワーを感じずにはいられない。
川原毛地獄の駐車場から15分ほどの山道を歩く。やがて見えてきた湯滝は、かなりの落差がある。20メートルはあるだろうか。ドドドドドッ! 轟音とともに、二筋に分かれた湯が滝壺へと豪快に落ちていく。
滝としても十分に見ごたえがあるが、「流れ落ちるのが温泉」という事実を加味すれば、奇跡の絶景といえるだろう。運がよければ、滝に虹がかかる光景に出くわすことも。
温泉の滝としては北海道・知床のカムイワッカ湯の滝も有名だが、ゆるやかな斜面に沿って流れるカムイワッカよりも、滝壺に向かって直角に落ちていく川原毛大湯滝のほうが迫力という点では勝っている。日本一ダイナミックな温泉の滝といってもよいだろう。
■夏場しか入れない季節限定の湯
川原毛大湯滝は観光スポットでもあり、夏場のシーズン中は入浴客が殺到する。だから、水着着用が原則。
川の湯は少々ぬるめ。だいたい36℃くらいだろう。川原毛地獄から湧出した高温の源泉が、沢の水などと合流するによって冷やされて適温になっている。雨が降った日は水のような水温になったり、乾燥した日は逆に40℃を超す湯になったりするというから、まさに地球のさじ加減ひとつである。ちなみに、入浴に適している期間は7月上旬から9月中旬。季節限定の温泉なのだ。
大量の湯が落ちてくる天然の滝壺は数人が浸かるのにちょうどよいサイズ。打たせ湯を試みるが、あまりの水量の多さにバランスを崩し、滝壺でおぼれそうになる。しかも、強酸性の湯だから、目に入ると強烈にしみる……。
自然のパワーに圧倒され、滝壺の隅っこでおとなしく入浴。それでも大地の恵みを享受するには十分。見上げれば流れ落ちる温泉の滝、耳から聞こえるのは滝の轟音と涼しげな鳥の鳴き声……。天然の湯船にボーッと浸かっていると、自然と一体化したかのような至福の時間が流れていく。
■生物が生息できない強酸性
川原毛大湯滝では、川遊びも楽しめる。温泉で体が熱くなってきたら、下流の冷たい流れを見つけてクールダウンすることもできる。天然の川ならではメリットだ。
もうひとつ特筆すべきは、川原毛大湯滝が強酸性の温泉である点。強酸性の環境ではほとんどの生物は生きることができないため、魚や虫は生息していない。
通常の川は藻や苔などが繁殖して、足裏がぬるぬる滑ることがよくある。転倒の原因になるし、独特のぬめりが苦手な人もいるだろう。その点、川原毛大湯滝ではこれらも生息できないため、快適な入浴と川遊びが楽しめる。ただし、肌が弱い人は強酸性の湯でただれることもあるので要注意。
川原毛大湯滝のほかにも、全国には源泉の川に入浴できる温泉がいくつかある。川湯温泉(和歌山)、尻焼温泉(群馬)、吹上温泉峯雲閣(宮城)などなど。夏休みは、子どもも喜ぶ温泉の川に出かけてみてはいかがだろう。