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第31話 「本当のそれ」って、なんなのか?

北村森の「今月のヒット商品」

 今回は、私自身が手がけている商品の話をすることを、どうかお許しください。その仕事を進めるなかで、「ああ、地域からの商品発信ではこれが大事なんだ」と改めて気づいた事例ですので、それを皆さんにもお伝えしたく…。

 

 私、ジャーナリストとしての仕事とは別に、行政機関や商工団体などからの依頼を受けて、地域発の商品開発に携わる機会が増えています。今回、お伝えしたいのは、航空会社のANAとの協業案件です。

 

 昨秋以来、ANA国内線の全便で、私が開発した商品が毎月、機内に搭載されています。2カ月ごとに新しい商品をつくって、機内媒体にコラムを綴るとともに、販売しているのです。テーマは「日本国内の実力ある産品をふか掘りすること」。昨秋は、砂糖不使用のドライフフルーツをつくり、短期間で完売しました。年始は特別なボラの卵巣を使ったカラスミのオイル漬けを製作し、これも完売。

 

 で、この2月からは、沖縄の産品に光を当てました。

 

mori31 1.jpg

 

 

 この画像がそれです。沖縄産のアセローラのジャム。値段は1000円と、ちょっと高めなのですが、これでも原価ギリギリでの価格設定です。

 

 これ、口にすると、きっと「あれっ?」と不思議に思われるはずです。なぜか。アセローラなのに、さして酸っぱくないんです。

 

 実は、アセローラって酸っぱい果実ではないのですね。澄んだ甘みをたたえています。私も以前はそうでしたが、多くの方にとっては、アセローラのドリンクのイメージが強いでしょうから、アセローラは酸っぱいものと早合点していますけれど、本当はそうではない(ドリンクは酸味を加えているんです)。

 

 で、今回のジャムは、その甘みを生かしました。つまり「本当のアセローラ」を伝えようと考えたわけです。

 

 ただし、人が持つイメージはまた大事ですから、下支えをする程度に、ちょっとだけ酸味を加えました。同じ沖縄のシークヮーサーの果汁を足したんです。それによって、爽やかさを創出しました。

 

 「本当の…」という意味で、もうひとつポイントがあります。ジャムの瓶のデザインに注目していただきたいのですが、アイボリーを基調色とした、ごくごく地味なものです。これはなぜかと言いますと、沖縄って、私たちにすれば「青い空、鮮やかな赤い花」といった景色が思い浮かびがちですが、地元の人に言わせると、そうでもないらしい。沖縄って本当は「曇りの島」なんです。それをそのままパッケージデザインで表したのがこれです。ここでも「本当の色」を大事にしました。

 

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 ただし、その外箱には、目を惹くものを採用しています。

 

 沖縄に古くから伝わる模様や、沖縄の景色を表す模様を、外箱の柄にしました。島の夕暮れや、パイナップル、ヘチマなどをモチーフにしたデザインです。

 

 この外箱、単なるパッケージではなく、ジャムを、購入された後、そのまま小物入れなどに使ってもらうことを想定しています。柄は全部で10種類を用意。購入時に選んでもらうことは機内販売の制約上できないのですが、「どんな柄の外箱が来るかな」と楽しんでいただけるようにしています。

 

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 今回、ジャム製作で協業したのは、沖縄の「琉Q(るきゅー)」というブランドです。沖縄の実力派商品を掘り起こすことを目指した新しいプロジェクトであり、事業主体は沖縄県の福祉団体(県の外郭団体)なんです。箱詰めの作業は、福祉事業所の皆さんの手になります。それを支えているのが、やはり地元のブランディング・デザイン会社。

 

 そして外箱は、ゆいまーる沖縄という地元企業が手がける「シマノネ」と名付けられたブランドの商品です。こちらは沖縄の伝統工芸の力を伝えるために立ち上げられたもの。

 

 つまり、今回の機内販売商品は、沖縄の福祉系職員や事業所、クリエイター、伝統工芸の専門家が力を結集させてできあがっているという話です。そこに、さらにはANA、そして恐縮ながら私が加わっています。

 

 こうして、完成した商品を見直して、心底感じたのは、「本当の色、本当の味、本当の模様」って、消費者に商品訴求するうえで大切だなあということでした。

 

 地域産品、とりわけプロジェクト型で開発された産品のなかには、ややもすれば「急ごしらえ、厚化粧、必然性なし」のものがあったりします。長年そうした商品を私は目にしていましたから、それだけは避けたかった。「急ごしらえ…」では、人の心に刺さるとは思えませんし、一見派手なものができたとしても、その後にずっと愛される(=しっかり根づいて売れ続ける)とは、私には感じられないのです。

 

 「答えは足許に必ずある」「必然性のないものづくりではメッキがはがれる」。そのことを意識しながら開発に臨んだ、という話でした。

 

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