物語コーポレーションは外食店であるにもかかわらず、中長期的に大きな波もなくコンスタントに業績を拡大させている数少ない企業である。
一般的に外食産業の既存店は、2―3年サイクルで好不調を繰り返す傾向にある。もっとも、競争力がなく、人気もない場合には、低迷が長期に続くケースももちろんある。ただし、同社の既存店は比較的サイクルが短くなっている。これは、同社が複数業態であることによって、個々の業態のサイクルが他社同様であったとしても、それを業態間でカバーし合って、好不調の波が小さく、短くなるためである。
現時点の各業態の状況を見ると、業態別では1位、2位の焼肉とラーメンが揃って好調になってきたことによって、全業態が好調になっていると考えられる。
全業態既存店に好不調はあるものの、波の大きさも小さく、サイクルも短いため、比較的業績はコントロールしやすく、ここ数年の業績は大きな落ち込みもなく順調に推移している。過去8期間を見ても2015年6月期は営業減益であるが、2.6%減と微減益にとどまり、それ以外は増益である。もっとも、2015年6月期の営業減益もこの期から連結決算を開始し、海外が赤字であったため減益になっているが、単体決算は11.7%営業増益と好調であった。
焼肉きんぐは2018年6月期第4四半期からやや既存店が伸び悩んでいたが、食べ放題コースにおける2019年3月のメニュー大幅刷新によって、再び息を吹き返してきた。2年前に目玉となる「きんぐカルビ」など4品を“4大名物”として導入し、1年ほど既存店の好調が継続したが、今回も同様のトレンドが期待されよう。
ベースの顧客満足度向上策としては、接客強化の一環として「焼肉ポリス」の導入と減卓がある。食べ放題業態ではともするとぞんざいになりがちな接客を、「おせっかい」を中心に強化しようと2016年に始めたものが「焼肉ポリス」である。焼肉ポリスは、繰り返し店内を循環し、返しの回数・時間など焼き方指導を各テーブルで行っている。
一方、3年前から店舗改装や新店オープンに当たって、テーブル数を適正化する減卓を行っている。テーブルオーダー型の食べ放題業態にとって、最も重要なことは迅速な料理提供である。食べ放題には時間制限があるため、顧客にとっては待ち時間は最も無駄な時間であり、待ち時間の短縮は命綱でもある。しかし、既存店が伸び続けたこともあり、厨房の処理能力を上回り、料理提供までに待たせてしまうことがあったため、卓数の適正化を図っている。
丸源ラーメンもユニークな業態である。ラーメン業態は行列のできるラーメン店が一つのイメージであり、エッジの効いたスープにこだわったラーメン店が一つの流れである。一方で、昔からあるのが中華料理店のラーメンとラーメンチェーンである。そのどれにも属さない業態が、同社の丸源ラーメンという位置づけになる。
同社のラーメンは幅広い客層を意識したラーメンであり、家族での来店をターゲットとしている。いまどきのファミレスは客単価が1,000円を上回るのが一般的であるが、家族で来店して一人当たり単価が1,000円に以下に納まるのが丸源ラーメンの売りである。その意味で言えば、なかなか直接的なライバルは思い浮かばない。
かつては一向に既存店が浮上しなかったが、メニュー改廃の繰り返しによって、着実に既存店が伸びる成長業態に変化し始めている。
このように継続的に各業態でブウラッシュアップすることで着実な成長軌道を描いているのが同社である。
有賀の眼
外食産業はどうしても好不調の波があるのが難点であるが、同社はこのように外食産業でありながらも、コンスタントな成長を遂げることができている。そして、この秘訣が業態磨き込みである。同社のすごさは何と言っても誰がやっても儲からないビジネスを業態磨き込みで儲かるビジネスに変えてしまうことである。典型的には主要業態である食べ放題焼き肉の焼肉きんぐがある。
すでに直近の業態磨き込みの具体的方策は上の文中で述べている。しかし、そもそも過去において誰がやっても収益性を伴ったビッグビジネスに仕立てられなかった焼肉食べ放題を、収益の柱にしてしまったこと自体に同社の凄味を感じる。
焼肉食べ放題の業態は、過去のパターンから言えば、安い肉を使って、コスト抑制のため余り手間をかけずに、店づくりもシンプルにするというものであった。最初の内は、話題性につられて様々な年齢層、嗜好の人が訪れるが、やがて一般的な人ではなく、食べる量に自信のある若者や学生が中心になってくる。そしては、いくら客が増えても儲からない店となってしまう。
それに対して同社の取った戦略は、まずは安い肉ではなく、高級ではないが、通常の価格で出すような上等な肉を用いたことである。当然、それだけで単純に儲かるほど甘くない。そこで、まずは品数を豊富にして、様々な食品を食べられるようにしたことがある。
牛肉だけではなく、鶏肉、豚肉、魚介類、サラダ、その他副菜(フライドポテトやから揚げ、たこ焼きなど)、デザート、そしてご飯ものなども注文できる。中間の価格帯である2,980円(税抜き)のコースで品目数は100品目となっている。顧客からすれば、牛肉が目的ではあるが、それ以外に選択肢があれば飽きがこないのでお得感を感じられるものである。しかし、会社側からすれば、牛肉が最も高価であり、いかに牛肉以外でお腹を満たしてもらうかが狙いであるので、まずはこれによって顧客に損を感じさせずにローコスト化を図れたわけである。
また、それまでの食べ放題は、人件費の抑制のためにバイキングが主流であったが、同社ではテーブルオーダー方式とした。その代わりに現在では一般的になっているが、注文はタブレットで顧客が行うことで、オーダーを取る時間をカットしている。そして、注文から配膳までの時間を極力短くすることで、顧客が不満を感じないようにしている。
バイキング方式では顧客はどうしても一品ごとに多くとりがちで、結果的には食べ残しが増えてしまう。しかし、テーブルオーダーにして、しかも1人前の量が実はかなり少ない。しかし、食べ放題であるので、食べたい人は注文数量を増やせばいいので、不満を感じることはない。しかも、最後にもうひと踏ん張りして食べたいときに少量を頼めるということは、頼む方の心理的スタンも少なく、加えて食べ残しは確実に減る。
料金体系にも工夫がある。料金は食べ放題のコースが、2,680円、2,980円、3,980円とある。そして、幼稚園児以下は無料、小学生は半額、60歳以上が500円引きとなっている。この辺りもやや工夫されており、幼稚園児、小学生、父母、祖父祖母というようなファミリーで考えると、子供料金と老人料金が低く一見お得そうに見える。しかも焼き肉は子供が大喜びである。このようなファミリー層を顧客にしたことが最大の勝因であろう。60歳以上でも自分だけで食べ放題に入る場合には、それなりに量を食べる覚悟で行くものである。しかし、子供たちの満足感のために連れて行く場合は、結果的に本人はそれほど無理をして食べることはないものである。
このように見てくると、同社の工夫は単に専門家としての料理の工夫や流行の見極めを超越し、人間心理や社会構成などまで含めて幅広い観点から儲かる業態を作り上げていることがわかり、つくづく感心させられるところである。