エランは病院や介護施設での入院生活に必要な日用品(衣類・タオル類・紙おむつ・ケア用品など)をセットにし、1日単位で必要なものを必要な時に利用できるシステムを供給する企業である。参入障壁も高くなさそうなビジネスでありながら、この8年間、年平均成長率は売上高で24.2%、営業利益で27.1%とまるでネット企業のような成長率を達成している企業である。2020年12月期の売上高は260億円、営業利益は20億円、売上高営業利益率7.9%を達成し、時価総額も800億円を超えている。
同社は1995年に寝具の販売会社として設立され、2003年に現在の中心的なサービスであるCS(ケア・サポート)セットサービスの提供を開始している。CSセットの内容の一例を示すと、入院時に必要な寝間着(浴衣・パジャマ)、肌着、靴下、バスタオル、フェイスタオルの一式となる。これらを1日600円で、洗濯もして替えてもらえるサービスである。また、このサービスに付随して日用品類や口腔用品が使えるものとなっている。
このようなCSセットがあれば、急な入院であっても慌てて準備せずに済み、また毎日洗濯して、病院や介護施設に届ける手間も省ける。単身世帯で世話をする人が近くにいない場合でも心配が要らない。一方、介護や看護の現場でも看護や介護業務の妨げにならないというメリットもある。
もっとも、これらのサービスの一部は、旧来からあったものと重複するものもあるが、フルカバーするものが無くやや物足りなかった。さらに、消費者への請求書の発送や様々な問い合わせ対応などそれらに付随する業務が煩雑であり、介護、看護現場の負担となっていた面もある。それを同社では入院時に必要なものすべてをカバーする形にして、しかも同社が間に入ることで、旧来範囲のサービスに付随する煩わしい業務を同社が負担することで、患者も現場もメリットを享受できるというWIN-WIN-WINの関係を成り立たせた。また、病院、介護施設に委託手数料を支払うことで、病院経営にもメリットがある。なお、その病院、介護施設と従来から取引のあるリネンサプライ業者をそのまま使い続けられるという点も導入がスムーズに進んだ背景である。
もちろん、これらを達成するためには、コーディネーターという立場で従来業務に新たな業者が加わるわけであるから、そのコストに見合うメリットを感じてもらうことと、コストを徹底的に下げる努力は不可欠である。いわば同社はこの分野の草分けという立場であり、シェアもトップではあるが、当然、後発企業も多く、日々業務の改善が命綱となるものである。それらの一つ一つを着実に積み上げてきて、名実ともにトップ企業としてこの市場の先頭を走っているのが同社である。
有賀の眼
一見すると参入障壁が低そうなビジネスに見えて、そもそも今更高成長、高収益が求められるようなビジネスに見えない。しかし、実際問題としてこの両立を成し遂げているのが同社である。
同社が業界での立場を不動のものとしている背景は、本当に細かい点まで気を配って、消費者、施設双方から高い信頼を得ていることにある。エランでは病院に保管場所を提供してもらって、そこにすべての身の回り品を揃えて、常に清潔な状態で保管している。仮にエランのサービスを使っていない患者であれば、不足する身の回り品があれば、スタッフが家族に電話で連絡する手間が発生する。しかし、エランと契約している患者であれば、その保管場所にすべての商品が揃っているため、いくらでも自由に使えて、家族に連絡するなどの手間から解放されることになる。
また、施設にそれらを常にローコストで過不足なく配送するために自前の物流網を整備するなど、着実に積み上げていることがある。
まさに、これが同社が他社を圧倒する背景である。