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第54回 ライバルの戦意をそぐほどの徹底したローコスト経営「サイゼリヤ」

深読み企業分析

サイゼリヤは言わずと知れたイタリヤンのレストランチェーンである。しかし、行ってみればすぐわかるが、イタリヤ人も驚くほどの低価格でイタリヤンを提供している。これはチェーンオペレーションを通じて、原料の製造から輸送、工場での生産、店舗の建設、店内のレイアウトまで徹底的に効率化して低価格を実現しているものである。
 
同社業績は2010年度をピークに一旦大きく悪化した。これはリーマンショック時にあまりのその価格の安さが注目され、顧客が殺到した反動からの立て直しに時間を要してしまったためである。これは同社にとってはまさに想定外の事態であった。予期せぬ危機には十分な対応をしている同社も、顧客の殺到という事態への対応は後手に回ってしまった。しかし、今再び2014年度をボトムにかつての勢いを取り戻しつつある。
 
 
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同社は創業来、サイゼリヤという一業態で展開してきた。しかし、それ以前は別にしてこの10年に限れば、決して一業態にこだわっていたわけではない。新規業態開発には余念がなかったが、サイゼリヤに匹敵する業態開発に成功しなかったというものである。そして、本業の立て直しに成功したこの時期にいよいよ第2の業態の本格展開を決断した。
 
新業態はパスタをファーストフードで提供するマリアーノという名称の店舗である。ランチメニューを見ると、パスタ、カップサラダ、ドリンクのセットで500円となっており、スパゲッティを大盛にして600円である。また、ドリンクは珈琲と紅茶で、お替り自由となっている。
 
同社では過去に試験出店したこれまでの新業態で手ごたえのあるものはなかったが、今回は当初から手ごたえがあると述べていた。今回の業態は固定客がつく業態であり、近隣での店舗認知度も高いものとなっているということ。ただし、1年ほど前の状況では、生産性に関して問題が残っていた。注文から出来上がりまでに時間がかかりすぎ、列に並んで待っているうちに帰ってしまう人もあり、もっと早く作る必要性があった。また、当時は商品の中に原価率が70-80%と高いものもあり、そのことも併せて設備の改善で生産性を上げる必要があった。
 
それに対して直近の決算説明会では、新業態において店舗ベースで営業利益率15%の利益モデルがほぼ完成したと述べている。ただし、見かけのオペレーションが簡単であるため、本格出店を開始して評判を呼べば、外食店の常で模倣店が次々と出現する可能性がある。そこで、同社では大量出店を開始したら最初から年間200-300店出店できるような店舗展開モデルを確立した後に本格出店したいと考えている。
 
仮に年間200-300店舗出店するとすれば、週6店舗から10店舗は出店する必要がある。そのためには、店舗の工期を1週間程度で済ませなければならない。つまり、ファーストフードでは店舗のモジュール化が必須の条件となる。加えて、社員研修も現在のサイゼリヤでは3カ月間かけているが、ファーストフードでは3日で済ませないと出店効率が悪化してしまう。そのためには、従来以上に工場における加工度を上げて、店舗での工数を削減する必要がある。この辺りが、大量出店開始時までの大きな課題となっているようである。
 
現在は数店舗で実証実験を行っているが、各店舗は必ずしも完成形ではなく、それぞれ少しずつ変化させて、完成形がわからないようにしているということである。それでも今期に二ケタは出店し、来期は最大で130店舗、そしてさ来期からは年間200-300店舗の出店体制にする意向である。
 
いよいよ第2創業期に入ったサイゼリヤから目が離せない。
 
有賀の眼
 
ここで、模倣企業が参入する前に一気に出店攻勢をかけると述べた。しかし、ライバルが参入するといっても、同社の模倣をする企業の収益性が同社並の15%になるかというと、決してならないと考えられる。しかし、多くの企業は模倣によって集客できれば、やがて儲かるようになると考え、その時点で儲かっていないとしても模倣店が多く出現するものである。安さ、速さを追求する業態であることから、品質の悪いライバルが出現し、パスタのファーストフード自体の評判を下げることが同社にとっては最も怖いことである。特に全くの新しい概念の業態であり、同社ではブランド定着のためにも出店を始めたらライバルが出現する前に高速出店する必要があると考えている。
 
今回の新業態展開の話を聞いて改めて感じることは、同社では新たにことを起こすにあたって、常にまだ見ぬ競合を意識して、模倣困難な状況を作り出しておくということの凄味である。外食産業は模倣するのはもはや当たり前の市場である。回転ずしが流行れば、皆真似をして回転ずしに参入する。
 
焼肉の食べ放題でうまく行った企業があれば、雨後の筍の如く、焼肉の食べ放題が出現する。もちろん、新規参入企業のすべてがうまく行くわけではないが、強力なライバルが残ると、そこからの競争が一層激しくなる。典型的には牛丼店の現状を見れば簡単に理解できよう。しかし、サイゼリヤの場合、ライバルらしき企業の影も見えない。もちろん、過去においてはライバルも出現したが、いまやほぼ見る影はない。
 
これはまさに同社の全社を挙げた、全面的なローコストオペレーションの賜物である。あるカテゴリーでここまでライバルの存在感を亡き者にしてしまった消費関連企業で思いつくのは家具のニトリくらいである。
 
それほどまでに同社のビジネスモデルの突き詰め方は徹底したものである。その意味から言えば、今回新規にチャレンジするファーストフードの新業態もあっという間に市民権を得るのではないかと期待してしまうが、果たしてどうだろうか。
 

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