バランスシートにまつわる「格言」
経営者の多くは、「損益はよく見るがバランスシートはちょっと苦手」と言われます。
損益や資金は日々の経営に直結してくるため関心が高いのは当然です。特に資金繰りに苦しんでいる会社は資金残や入金や支出の予定はいつも気になっています。
それに対してバランスシートは確かに毎日見るものでありません。だから意識が低くなることは仕方がないかもしれません。
私は仕事柄、多くの会社の決算書を見る機会がありますが、意識的にバランスシートを見るようにしています。損益計算書を見るよりなぜか「楽しい」のです。それは、その会社のことが「手に取るようにわかる」からです。
人のことはよく見えるとはよく言ったものです。
私自身、長年、会社の経営に携わる時間が多かったのですが、自社のバランスシートはといいますと、正直、ほとんど見なかった時期がありました。それを第三者に指摘されて見る具合です。
10数年前、上場をめざしていた時、顧問弁護士と一か月に一回会うことになっていました。その際、弁護士から、昨日時点での総資産、純資産などの金額を必ず聞かれます。それも一円単位で。
最初は、びっくりしましたが、慣れてくるとそれが当たり前になってくるから不思議です。そして、意識してバランスシートを見るようになった覚えがあります。やはり、第三者に会い、意見を聞くことは大事なのでしょう。
このような経験から、どうすれば自社のバランスシートに関心を持てるようになるのかを常に考えてきました。
その過程でバランスシートに対する思いをメモにしたものを振り返ってみますと、メモがバランスシートに関する「格言」らしきものになっていたのです。
そこで、バランスシートに対する思いを「格言」としてまとめてみようと考えました。
バランスシートが気にならない経営者に対して、「バランスシートは経営に重要です」「バランスシートを見ないと大変なのです」とお話しをするよりも、バランスシートに関わる「格言」を紹介していくことの方がよりバランスシートを身近に感じられると思います。
ちなみに投資に関する格言には次のようなものがあります。
投資心得 其の一 「麦藁帽子は、冬に買え」
みんなと一緒に同じことをしていては、利益は得られない。皆が買(売)っている時は、高値(安値)掴みとなるので注意。
投資心得 其の二 「静中の動、動中の静」
名人達人の境に近づくと、相場の奥の動きを感じることができ、次の相場展開の予測が可能となる。
投資心得 其の三 「無欲万両値千金」
相場は、無欲になって状況を検証、見極めることが何より大事。
投資心得 其の四 「利喰い千人力」
欲を出さず、先ず利益の確定が大事。
投資心得 其の五 「もうはまだなり、まだはもうなり」
もう、この値段で利益の上限かと思うときは、まだのときが多く、まだまだと思っているときは、もうその時がきていることが多い。
投資心得 其の六 「鮟鱇は、料理上手も手から水」
どんなに上手な人でも、時には失敗することがある。不確実な要素の多い相場の世界では、当然のことといえる。
投資心得 其の七 「慢心、安心、有頂天、傲慢天狗は、皆落ちていく」
人生同様いずれも相場において、最も戒むべきことであり、人間ができていなければ相場で勝ちを修めることはできない。
投資心得 其の八 「小知、小策無用の長物」
なまはんかな知識や小手先の手法で、物事は成功しない。
投資心得 其の九 「筋の耳打ち、信用するな」
もっともらしい噂は、信用してはいけない。往々にして落とし穴があるもの。
投資心得 其の十 「順にいては逆を忘れず、逆については己を捨てず」
これは、順調に行っている時でも、常に逆に行くことを忘れずに、また、自分の判断と逆に行っているからといって自暴自棄にならず、冷静に相場を見ることが大切だということ。
投資心得 其の十一 「戌亥の借金、辰巳で返せ」
戌亥年は、諸物が安いことが多い年回りといわれ、この年に多少無理をして買っても、高値で推移することが多いといわれている辰巳年で売却すると利益になることが多い。
投資心得 其の十二 「押し目待ちに、押し目なし」
安くなれば買いたいと思っていても、誰もが同じ気持ちなため、押してくれない。結局買えないで終わってしまう。
投資心得 其の十三 「一つの篭にタマゴを盛るな」
いくつかの篭に卵を分けて運べば、もし篭を一つ落としても割れる卵は一部で済む。分散投資が有利。
投資心得 其の十四 「売るべし、買うべし、休むべし」
売りと買いの二つしかないと思うのは誤りで、休むことも相場には大切な要素である。
投資心得 其の十五 「最初の損は、最良の損」
最初に損をするのがいい。勝てば自分の能力だと思い込んで後々大損する場合が多い。
投資をしている人でも、日頃は投資に関する格言を見ることはありませんが、ちょっと相場を一服したり、負けが込み初心に帰る時、格言を読むことがあります。
そして、大抵の人が、「なるほど」「やっぱりそうだった」と頷くものです。
バランスシートも同じことです。バランスシートがいくら大事だからと言って日々見ながら経営することはありませんし、たとえバランスシートに関する「格言」があったとしても、日々、見る必要はありません。
バランスシートは、通常は一か月に一回、確認するくらいでしょう。その時、バランスシートにまつわる格言を知っていれば、バランスシートの数字に「違和感」を覚え、また、バランスシートの叫び声が聞こえ、何かしら気がつくことがあるものです。
この気づきが極めて経営には大事になります。
これからお話ししますバランスシートの「格言」を意識していただくことで、バランスシートの見方や活かし方が変わり、そして、経営の実践に生かしていただければうれしく思います。