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第122話 「個人保証に頼らない融資は、金融庁の重要施策です」

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個人保証に頼らない融資は、金融庁の重要施策です。

平成27年9月、金融庁から新たな「金融行政方針」が、各金融機関に配信されました。インターネット上で開示もされています。
そのなかの重点施策のひとつとして、「個人保証に依存する融資姿勢を改める」とあります。
個人保証に関しては、平成26年、「経営者保証に関するガイドライン」が金融庁から金融機関へ出されています。とはいうものの、実態としては、まだまだ依存傾向が強い、と金融庁は判断しているのです。私たち経営コンサルタントも感じています。

平成28年6月、「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績状況を、金融庁が発表しました。

  H27年4月~H28年3月
新規融資件数 3,565,697件
新規無保証融資件数 415,990件
既存保証解除件数 30,372件

上記データを見ると、平成27年4月から平成28年3月までの調査で、新規融資に占める経営者個人保証に依存しない新規融資は、約41万5千件。全体の12%です。ガイドラインが出た後も、ほぼ9割の案件は、経営者が個人保証しているのです。上記1年間に、既存の個人保証を解除した数字も出ています。年間で30,372件です。1年間の融資件数は約350万件です。それを考えると、ごくごくわずかな数字です。

実際、既存の個人保証について“外してください!”と銀行に交渉しても、すぐに外してくれました、という声は聞いたことがありません。
一番多いのが、“持ち帰って検討させていただきます。”となって、そのまんま、というパターンです。

銀行は基本、個人保証を外したくない、というのが、まだまだ現状のスタンスなのです。だから、ちょっとお願いしたくらいでは、のらりくらりとかわされます。
“個人保証の件はどうなりました?”
“新たな金融行政方針でも、重点施策になっていますよね?”
“金融庁の方針書、ご覧になっていますよね?”
といいつつ、方針書をプリントアウトしておき、その場で見せるくらいしても、いいのです。

ではどうして、銀行はそう簡単には個人保証を外さないのでしょうか?
ある元頭取の方に、たずねてみました。
“金融庁が方針であげているのに、どうして既存の個人保証をなかなか外さないのですか?外すと担当者の個人成績が減点されるんでしょうか?”

すると、次のような回答をいただきました。
“いやいや、外したからといって、個人の減点があるわけではありません。ただ、外したあとで、もしその会社で不良債権が発生したら、その責任は、外した担当者にいきます。転勤があっても、その責任はずっと個人についてまわります。だから、外したがらないんですよ。”

つまり、外した時点で減点はないものの、不良債権化すれば、その担当者の減点対象になる、ということです。しかもその責任は、その融資が完済されるまで、ついて回ります。個人保証を外さなければ、不良債権化した場合、その責任は、融資をした際の担当者についてまわります。
銀行員は、転勤が多い職業です。
企業側から“これまでの個人保証を外してください。”と交渉しても、その融資時の担当者は、すでに転勤している、ということが多いのです。過去の融資時の個人保証を外す、ということは、前任担当者の融資の責任を自分が負う、ということになるのです。

現状の銀行内の出世レースは、点数がすべてです。個人保証を外せば、減点に繋がるかもしれないタネが増えるのです。担当者にすれば、そんな減点対象のタネを抱えたくないのは当然です。しかも、自分ではなく、前任者の融資なら、なおのことです。だから、なかなか個人保証を外したがらない、というわけなのです。
しかし、だからとって、融資を受けている企業側も、“しかたがない”というわけにはゆきません。各企業それぞれに知恵をこらして交渉し、“外してもらいました!”という報告をいくつもお聞きしています。

中部地方のある企業でのことです。
3つの銀行からの借入があり、個人保証を外す交渉をしていました。しかし、3つのA、B、C銀行とも案の定、“持ち帰って検討します”の横並びで、進展がありませんでした。
そこへ飛び込みで、四国地方のD銀行が営業に来ました。近くに支店ができ、あいさつ回りにきたのです。で、“担保・個人保証なしなら、借入を考えてもいい。”と、経営者は交渉しました。
四国から、というアウェイの弱みがあるので、銀行営業マンも必死です。
“わかりました!”と元気よく帰り、1週間以内に、“担保・個人保証なしでお貸しします!”との返事を持ってきたのです。
で、D銀行から実際に借りたのです。

当然、経営者はその事実を、先のA、B、C銀行に伝えました。
“えっ、そうなんですか!”
「個人保証死守」という、3銀行による暗黙の牙城を崩された各担当者たちは、それぞれ焦りの表情を見せたそうです。当然です。
このままでは、それぞれの融資がD銀行にとってかわり、全額返済されるかも、しれないのですから。担当者にとって、目先の融資シェアを奪われることは、不良債権発生時のリスクを負うことよりも、絶対に発生させたくない即減点となる要因なのです。しかも、アウェイの銀行にやられたとなったら、なおのこと、担当者は言い訳に苦しむはずです。担当者にすれば、「それだけは避けなければ!」となります。
で、続々と、“私共でも、個人保証を外させていただきます。”とやってきたのです。しかも、“なかなかOKが出なかったのですが、ようやく了解を得ることができました。”などと、いかにもずっと働きかけていたかのように、もったいぶって言ったそうです。本音は、自分の身を守りたいだけ、なのです。これまで、個人保証を外す気など、なかったのですから。

その経営者いわく、“飛び込みできた銀行が役に立ちました!”というわけです。
銀行交渉は駆け引きです。その駆け引きに、新参者のアウェイ銀行を活用する方法は、大いにアリ、なのです。

ここで紹介した事例を含めいずれの場合も、経営者が粘り強く交渉を進めた結果、個人保証を外すことに成功しています。そして、皆さんこう言っています。
“個人保証が外れると、それだけで気持ちがものすごくラクになりました。”
当然です。経営にはマサカの坂があります。そのときに、個人保証が有るのと無いのとで精神状態が全く異なる、ということが大いに予測されるのです。

個人保証は交渉によって外すことができます。
あらためて申し上げますが、個人保証を外せないのは、

1) 2年連続、減価償却費を除いて経常利益がマイナスの場合
2) 債務超過の場合

だけなのです。

最後に、銀行員は平気で嘘を言います。だから、悪人というわけではありません。銀行員はセールスマンです。セールスの世界では“駆け引き”行為が許されるのです。駆け引きに負けてはならないのです。

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