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第107話 「ささやき税理士は、税務上の評価軸で会社をみている」

強い会社を築く ビジネス・クリニック

アイシーオーコンサルティングの古山喜章です。今回は、私が原稿を書かせていただきます。

数年前、どこかの料亭の記者会見で、「ささやき女将」というのが話題になりました。しかし、ささやくのは、女将だけではありません。多くの経営者のお話しを伺うと、「ささやき税理士」の多さに驚くのです。

ある企業で、製造工場を新設しました。3億円を超える建物です。設備も含め、4億円を超える、生産性向上設備の認定を、経済産業省より無事に受けました。当然、即時償却を活用するためです。
しかし、決算間際になって、税理士から、誘惑のささやきがありました。
“一括償却すると、大きな赤字になるし…、減価償却を長く活用したほうがいいんじゃないですか…、建物なら、30年以上も活用できますよ…。”

経営者は、その言葉に迷い、私に電話がありました。
“と、いうことなんですが、どうでしょうか?”
“そんな税理士の言葉にのらず、予定どおり、即時償却しなさい!”
と、お答えしました。
ちなみにこの会社は、満額即時償却しても、びくともしない、剰余金を純資産に抱えています。しかも、今後数年は、税金での現金流出(キャッシュアウト)をゼロにできるのです。
即時償却制度は、いま活用するから、おいしい、魅力的な制度なのです。30年もかけて、ちびちび味わうものではありません。

・即時償却すれば、設備投資をしても総資産が増えません。
・その結果、税引き前利益を大きくマイナスにできます。
・税金での現金流出(キャッシュアウト)を一気に減らせます。

そもそも、どうなっているかわからない30年後より、見えている中期の現金流出(キャッシュアウト)を減らすほうが、実用的なのです。

それに、総資産も縮まります。減価償却費も、即時償却分を特別損失にすれば、営業利益や経常利益は変わりません。で、ありながら、即時償却がある分、法人税の現金流出(キャッシュアウト)は減ります。良いことだらけです。

じゃあ、税理士先生の真意は何か?
“大きな赤字を出してよいかどうか、わからない”
“どのような処理をするのがベストか、わからない”
“ならば、これまでどおりの処理でいいのではないか?”
つまり、わからないのです。だから、しないのです。とはいえ、わからないから、とは言わないのです。で、ささやき税理士に変身するのです。

ささやき税理士の事例を、もうひとつあげましょう。

ある企業で、決算前の試算表を見ました。なんだかいつもより総資産が増えています。よく見ると、見慣れない勘定科目がありました。固定資産に「リース資産」があり、固定負債に「リース負債」があります。その分、総資産が増えているのです。前年までは、そのような勘定科目はなかったのです。
“どうして急に、この勘定科目を計上したんですか?”
“私もどうかなぁ…、と思ったんですが…、税理士さんが、最近はこれが一般的ですよ、としきりに言うので…。”
とのことでした。顧問税理士からの、誘惑のささやき、があったのです。

で、その税理士にも確認してもらうと、
“知り合いの税理士数人からも言われて…”
とのことでした。結局、ささやき税理士の言う一般的とは、その数人の税理士の発言をもとにしたもの、にすぎなかったのです。
言ってみれば、子供のころ、“みんな持ってる!”“みんな言うてる!”と訴えては、親に何かをねだったのと、同じです。

上場企業の会計基準では、リース資産は総資産に含めます。しかし、非上場企業では、含める必要はないのです。だったら、含めないほうが、総資産はその分小さくなります。自己資本比率も、ROA(総資産経常利益率)も、その分、良くなります。ということは、銀行格付け評価も良くなります。要は、総資産に含めないほうが、断然、いいのです。

なのに、ささやき税理士先生の言い分は、
「総資産に含めた方が、上場企業と同じ基準で対応している、ということになるじゃないですか。」となるのです。
“上場企業と同じだから、スゴイじゃないですか。”
くらいのレベルの判断なのです。銀行はB/Sで企業を評価している、ということを全く知らない証拠です。銀行格付け(スコアリング評価)の要素に、上場企業と同じ基準で会計処理をしている、など、どこにもないのです。
もし、自社の決算書に「リース資産」「リース負債」があるなら、すぐに外してほしいのです。

以上、二つの事例を踏まえて気をつけておきたいのは、ささやき税理士の影響を受けやすい経営者は、総じて、税務対策や銀行対策に明るくない、ということです。もっと突き詰めれば、B/S(貸借対照表)が苦手である、ということです。税理士のささやきに、自信をもって“ノー!”と言えないから、迷ったり、良からぬささやきに便乗したり、するのです。
ささやき税理士を変えるより、まずは経営者自身が、税務対策・銀行対策に、そしてB/S(貸借対照表)に、強くなってほしいのです。

加えて、外部(銀行)と税務上では、いい会社かどうかの評価軸が異なるのです。外部(銀行)から見た評価軸は、収益性と安定性です。税務上の評価軸は、税法に基づく適正納税です。先に登場したささやき税理士は、税務上の評価をもとに、提案を投げかけているのです。どちらの評価が高いほうが、経営にとって有利なのか、お金がたくさん残るのか、経営者のみなさまには、よく考えていただきたいのです。

外部(銀行)を税務上では、いい会社の評価軸は異なります
外部(銀行)から見た評価 税務上の評価
収益性・安全性
(キャッシュフローが多い)
税法にもとづく、適正納税
(納税が多い)

 

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