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逆転の発想(28) 少数意見はアイディアの宝庫(文化人類学者・川喜田二郎)

指導者たる者かくあるべし

 KJ法による会議の進め方
 およそ会議というものほど退屈なものはない。あらかじめ設定されたテーマについて、「皆さんの意見を聞きたい」として招集されるが、ひと通り意見が出た後でトップが、「では、こういう方針でいこう」と自ら事前に決めておいた結論でまとめる。これでは、事実上、指示通達の場でしかないのだが、かけた手間は民主的な手続き、儀式のための必要経費であるとたかをくくっているリーダーたちのなんと多いことか。
 
 記者として各省庁、自治体のいわゆる諮問会議を取材する機会が多々あったが、参加した有識者メンバーの意見披歴とは関係なく、事務方が周到に準備したシナリオに沿ってスムーズに結論に至る。結論は、“優秀なるトップ”の頭の中だけにあり、有識者の意見は参考意見でしかない。それが結論に影響を与えることはまずないのだ。
 
 文化人類学者の川喜田二郎は、フィールドワーク(野外調査)で集めた情報、資料をまとめる際に画期的な会議・議論手法を編み出した。討論テーマ(論文の方向)は自由な討論の中で決められ、それぞれの発言内容の細部は一枚ずつのカードに要点が書き込まれる。そのカードを内容によってグループ分けする過程で、意外な全体像(論文内容)が浮かび上がってくる。
 
 川喜田は、この手法を本人の名前の頭文字をとって「KJ法」と名づけ、有効な研究まとめの方法として確立した。その詳細は、著書に譲るが、川喜田はKJ法の発想が企業での会議のあり方、現場の事実から方針を決定する手法、会議の活性化の手段としても有効であるとして普及に努めた。
 
 ブレーンストーミング
 川喜田は、会議の重要な目的は「衆知を集めること」だと規定する。そのために会議では、〈テーマに関係ある情報ならなんでも述べてみる〉ことが大事だ。ブレーンストーミングの手法だ。それぞれが現場で得ている情報、脳内で生まれた意見、意見にもならないヒントをぶつけ合う。それによって全くかけ離れた見解が、ある脈絡で繋がることもある。そこから常識では見えなかった発想が生まれることもある。
 
 このときに大事なことは、この段階で他人の意見を批判しないことであると彼は言う。ブレーンストーミングの段階では、誰もが自由に考えを述べることが大切だ。
 
 〈批判するぐらいなら自分の意見を述べよ〉
 
 発想の芽を摘むな、ということである。批判は、まとめの段階での検証に委ねる。
 
 なぜ批判を禁じるのか。彼によれば、会議の参加者は他人の意見に対して好き嫌いがある。〈気に入った意見だけが印象に残り、気に入らない意見は無視するか忘れている〉。これでは生産的な会議、議論にならない。
 
 自由奔放な意見表出を妨げる要因がもう一つある。まとめを急いでしまうことだ。ブレーンストーミングを経験してみれば、だれしも感じるのは、「これでは収拾がつかなくなるのではないか」という恐怖だ。それで、「はい意見はそこまで」と、急ぎまとめに入りたくなる。議論の方向をしぼりたくなる。意見が出尽くさないのにである。
 
 〈逆に言えば、まとめる自信があればあるほど、自由奔放な意見の発散を恐れなくなる〉。肝に銘じたいものだ。
 
 少数意見を生かせ
 百家争鳴の意見が出尽くしてあと、まとめの段階でこそ批判の精神が発揮されるべきである。まとめていく全体の意見構造のなかで、「どうもこの意見は全体の議論から遊離している」と気づくことも大事だ。
 
 しかし、だからと言って、議論の中で調子はずれの浮いたように聞こえた意見こそ慎重に吟味する必要がある。
 
 〈(そうした意見こそ)当惑を乗り越えたとき、新しく問題を考えなおすためのとっかかりになることがあり、一同を啓発させる力をもっている場合が多い〉。KJ法を発案、実践してきた川喜田氏の実感なのだ。
 
 少数意見を取り込む知恵があってこそ、組織は活性化し、組織内の意思疎通がスムーズになる。自分の意見が無視され一度も耳を傾けてもらえないなら、衆知を集めるはずの会議に参加する意欲は失われてしまい、だれもが耳ざわりのいい意見しか言わなくなる。
 
 リーダーなら、あらかじめ結論ありきの会議など開いてはいけない。時間と労力を費やすばかりのそんな退屈な会議は、いらない。
 
 新型コロナ対策を話し合う有識者による会議のあり方をめぐって喧しい。総理が決めた「経済優先」の結論ありきでのお座なりの議論に陥っていないか。日々、感染者が増えつつある中、政府は有効な対策を打ち出せていない。心配である。
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『発想法 創造性開発のために』川喜田二郎著  中公新書

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