第157話のコラムで、中小企業のデジタル化は遅れている、と書きました。
その代表的なひとつが、タイムカードと給与明細です。
ある会社で、懐かしいものを見ました。旧型のタイムカードです。
表は青、裏は赤、でデザインされたものです。
「えっ、いまだにタイムカードこれなの?」と言ってしまいました。
「そうなんです。事務の山田さん(仮名)がいつも準備してくれます。」
と、その会社の幹部が答えました。
旧型のタイムカードは、名前や社員番号を両面に手書きしていました。
「しかし、100人分くらいあるでしょ。」
「100人を少し超えています。山田さんがいつもきれいに名前と社員番号のハンコを押してます。職人芸的ですよ。」
社員の名前はハンコをつくって押し、社員番号もハンコで押し、〇年〇月の部分もハンコを押してます。
そうです。旧型の勤怠管理では、タイムカードの準備作業、というのがありました。総務でタイムカードを準備し、月末までに各事業所に配ります。月初を過ぎると、各事業所から打刻済みのタイムカードが総務に届きます。
休日は、管理者が公休とか有給、と記載してあります。で、各人の勤怠時間の計算を始めるのです。
打刻モレがあると、いちいちその事業所の管理者に電話をして、確認するのです。
その会社では、いまだに旧型のタイムカードで管理を行い、勤怠時間は毎月、勤務時間を別途パソコンに入力し、昔ながらの計算作業を行っていたのです。
すでに勤怠管理を電子化している会社にすれば、
「まだ、そんなことしている会社があるんですか?」
くらいの遅れ方ですが、実際には、まだまだそのような会社が、あちらこちらに存在するのです。
現在多いのは、ICカードをかざすタイプか、指をあてる生体認証型、のふたつです。勤怠時間はその時点でデータ化されます。
そのデータを総務に転送し、そのまま時間計算も行います。タイムカードの準備も職人芸も不要、勤務時間の計算も不要、が当たり前の時代なのです。
「勤怠管理 システム」と検索すれば、いくらでも候補が上がるし、かかりつけの社労士に相談すれば、教えてくれるはずです。
加えて、タイムカード同様に遅れているのが、給与明細のメール配信です。
先日ある会社で、
「うちもようやく給与明細をメールで送信するようになりました。」
とお聞きしました。
「えっ!まだ手作業でやってたんですか!」
と言ってしまいました。その会社は多店舗展開する飲食店です。
事業所が分散している場合、紙の給与明細を本人に届けること自体が大変です。
「その人はもう辞めました。」
「正式異動はまだ先ですが、すでに勤務地が変わってます。」
「いつまでも本人が取りに来ない明細を、どうしたらいいですか?」
等々、店舗からさまざまな問合せがあります。その都度、明細を届けることのためだけに、労力がかかるのです。何の付加価値にも繋がりません。
手間がかかるだけです。それでも、
「80名~90名くらいだと、人手のほうが安くつきます。」という幹部がいるのです。しかしそれは、慣れている人がやれば、の話しです。担当が変わるたび、育成のコストもかかるのです。
それに、紙の給与明細の場合、まるで月次の恒例行事のように、明細発送の準備作業があります。総務も人事も数名がかりで、明細の中に連絡事項の紙を入れて封をしたり、店別・部署別に、配送の仕分け作業に取り掛かります。
在籍人数が数百名規模になれば、かなりの労務コストがかかるのです。
メールで送信すれば、このような作業コストは不要です。
「どのように進めればいいのでしょうか?」と聞かれます。
給与計算ソフトを扱う会社なら、明細のメール配信はいまどきどこでも対応しています。まだこれから、というのならまずは、自社の給与計算ソフトを扱う業者に、尋ねてみてほしいのです。
勤怠管理は最もデジタル化しやすい業務なのです。
人手不足で困っているのなら、人がやらなくてもできる方策を、とればよいのです。