2021年9月に、井上和弘の経営革新全集の第9巻『会社の病に効くクスリ』を出版されました。
これまで300社以上の会社を直接指導された著者がどういうお考えで、ユニークなタイトルの本書を書かれたのか、その意図をうかがいました。
■井上和弘(いのうえ かずひろ)氏
アイ・シー・オーコンサルティング 会長
「儲かる会社づくり」の指導歴45年以上。オーナー企業の経営に熟知した日本屈指のコンサルタント。これまで300余社を直接指導、オーナー社長のクセを知りつくし、次々と零細企業を中堅企業へと導き、一部上場はじめ株式公開させた企業も10数社にのぼる。経営指導に東奔西走する傍ら、弊会主催「後継社長塾」の塾長を30年以上務め、今まで500人以上の後継者育成に携わる。
Q:元野球監督の野村克也さんが「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」とおっしゃってますが、 この「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」は、経営においても当てはまりますか?
野球と事業経営は違いますね。
われわれ経営コンサルタントは、「不思議」というアバウトな言葉を使うことはできません。なぜその会社が成功したのか、なぜ失敗したかをあくまでも経済合理性に基づいて分析し、その要因を見つけださなければなりません。
ですから、あえて事業経営について、野村監督流に言うとすれば、「勝ちに不思議の勝ちなし、負けに不思議の負けなし」となりますね。
Q:出版された「会社の病に効くクスリ」のまえがきの冒頭一行目に、「経営者の成功談は役に立たない」とありますが、どういう意味でおっしゃっているのでしょうか?
経営者が語る成功談には、客観的な分析がなされていません。人は自分のことを語る場合、どうしても見栄やよく見せようという気持ちが働きます。なので、成功談は経営の参考にはならないんです。
それに対して、経営者が大失敗した話、逆境に陥った話、そこからどう立ち上がったかの話がとても参考になります。ただ、そういう失敗談はなかなか表に出てこない。
日経ビジネス誌の「敗軍の将、兵を語る」や、信用調査会社の倒産レポートは、残念ながら分析が浅いので、ほとんど参考になりません。
たとえば、「販売不振により倒産」と書かれていても、現実には、販売不振の会社がすべて倒産する訳ではありません。もっと突っ込んだ分析が必要なんですが、経営に詳しくない記者が取材しているため、表面的な内容が多いです。
今回、出版した「会社の病に効くクスリ」は、私が50年間、体験してきた会社の失敗例を集めたものです。
もちろん、社名、地域、人名は仮名で、よくある2、3社の事例を1社に加工して、社名を特定できないように配慮してますが、そういう意味では、類まれな本といえるかと思います。
Q:中小企業がかかりやすい病で代表的な病をひとつあげるとすれば何でしょうか?
ひとつだけあげるとすれば、「金欠病」です。
本では「銀行さまさま病」や「カネ回り病」などに、病の種類を分類していますが、要するに、「金欠病」だから、銀行からお金を借りなければならないように、倒産する会社はすべて最後は重篤な「金欠病」となって潰れるわけです。
Q:企業ドクターとして「この病は治る、治らない」と診断する基準はなんでしょうか?
現金がなくとも、企業として体力があるかどうかを見ます。
体力のある会社とは、収益が良く、安全で潰れにくい会社ということです。 会社の体力は、稼ぐ力と安全度を掛け合わせたものでわかります。
ですから、私が会社を診断する際は、必ずその会社のバランスシート(B/S)を見て、体力指数を計算して判断します。
体力指数とは、収益性指数と企業安定度指数を掛け合わせたもので、具体的には、総資産経常利益率と自己資本比率を掛け合わせれば算出できます。
合格指数は、「300」以上です。たとえば、総資産経常利益率10%、自己資本比率30%で、「300」となります。
現金がなくても、この体力指数が高ければ、会社は潰れにくくなります。
本の中で、体力指数のことも詳しく説明していますが、ぜひ他社でおこったトラブルや失敗から学んでいただきたいと思います。
(聞き手/岡田万里)
「愛読者通信」(2022年1月発行)掲載
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◎井上和弘「強い会社を築く ビジネス・クリニック」
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