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第56講 クレーム担当者が疲弊しない成功の極意(2)

クレーム対応 実践マニュアル

こじれたクレームを解決する法則 Part2:上級編(2)
(※エスカイヤニュース2012年1・2月号特集 寄稿文より)
 

3.決して焦らず相手があきらめてくださるまで根気を持って対応をする

そのためには、「一方的だ」とか「事務的な対応」だと感じさせることのない会話の運びに気をつけることが最も大切です。「相手の理解度を確認しないまま、説明を浴びせ掛けない」ことや「相手の思いに共感言葉もいわずに、説明を重ねていく」ことは、クレーム対応ではとてもお粗末な対応だと言われています。いくら、エスカレーション対応は客観的にと言っても、これ以上、相手が心外な思いにならないように会話を運んでいくことは、相変わらず大切なことです。

ただ、エスカレーション対応は、初期対応をした担当者と人物が替わることも、エスカレーション対応を成功させる大きなカギです。そもそも一次対応と比べて対応は客観的に対応することが必要ですので、一次対応でお客様に深く迎合して対応していた担当者が、エスカレーション対応に事態は運ばれたからと言って、急に態度を変えることはとても難しいことです。そのようなことも考えると、一次対応の担当者は二次対応をしない方が良いのです。

二次対応に向かう時に大切なことは、1回の対応で解決をしようと焦らないこと。焦ると問題をさらに複雑にしかねません。ここまでからみついてしまった問題ですから、からみをほどくにも時間が必要です。その原理をしっかりと理解し、焦らずに解決することです。
エスカレーション対応者の1回目の交渉で、お客様が容易には納得しない場合は「もう1回考えます」と時間や空気を入れ替えるタイミングを取ります。そしていただいた時間を有効に使って、次回の会話の運び方や、視点を切り替えてなにかできることがないか、やっておかなければならないことがないかを見つけ、次の対応に挑みます。
つまり、いただいた時間を無駄にせずに、相手のことを思い、こちらの考えを原点に戻した結果、着地点はどこかを見つけ出す作業が必要です。そして、その着地に二人(お客様と担当者)でたどり着けるためには、どのような手順や言葉の運びで行くかとしっかりと考えます。
    
このときに担当者は「面倒くさがらずになにができるか」というテーマで考えていくと間違いのない、和解が進む着地点と手順が見つかります。お客様は、手を抜いた対応がいちばんきらいですし、面倒くさがらずに手をかけてくれる対応に気持ちが鎮まるのです。本来ならやらないけれど、面倒くさがらずになにかお客様のためにひと仕事をする。これがクレーム対応の成功の秘訣です。

たとえば、飲食店のケースで、サービス係が料理をこぼし、お客様の洋服を汚したとします。この問題が起こった瞬間に、洋服の汚れに対して応急の処置をするとか、クリーニング代をお渡しして許していただくなどの一次対応が行われます。しかし、基本的に間違いのない一次対応をしたにもかかわらず、話がこじれてきた場合はどうするか?「お客様の気持ちを察し、面倒くさがらずに何ができるか?」私なら、お客様と同席していた人もきっと、不安や不快な思いをしたと思いますので、その方たちにもお詫びをしたいと、当事者に申し出ることをします。そして、このお客様の格好悪い気持ちを、少しでも、私が身代わりになって回復することに力を注ぎます。

また、洋服代を全額支払ってほしいとか、さらには飲食代も無料にしてほしいとかの無理なお申立てがその場であったとしても、「そのお返事は私の一存ではできませんので、本社の上の者と話し合いまして後日、ご連絡いたします」とふんばり、この場で結論を言わないようにしましょう。そして、後日、正確で誠実なお返事ができることをめざしましょう。

クレーム対応は「結論を急がずに」。しかし、社内での「検討や調査はスピーディに」そして、お客様に「報告はこまめに」行うことが失敗しない二次対応に大切なことです。



4.着地点を目指す強い意志を持ち、そのことを理解していただくために柔らかい表現をすることが、重要なテクニック

会社と話しあって決めたまちがいのない着地点に到達するために、担当者はどのような手順で、どのような言葉を使ってやっていくのかをしっかりと計画をしておくことが必要です。交渉の成功は、着地点をどこにするかではなく、話しの運び方にあります。つまり話し方、言葉の運び方で、相手はあなたの目指している着地点に降りるか降りないかが決まるのです。

クレーム対応時の担当者の感情は、平常心ではありません。相手に謝っても謝っても謝り切れないほど申し訳ない思いが高ぶっていたり、相手に対して恐怖感を感じていたり、腹立たしさを感じていたりと気持ちは複雑に高揚しています。また、上司にしかられるのではないか、上司にほめられる対応や着地点はどこにあるのかなど、相手のこと以外に考えなければならない問題もあり、心の中はたいへん重く緊張しています。

そんな中で、相手にこちらの着地点を伝え、その着地点が不満だと言われても、最終的にその着地点でもかまわないという思いにさせるのに必要なのは『相手の不平にめげない強い心』と『柔らかい話し方』です。
まちがってはいけないのは、『相手の不平にめげない強い心』だからこそ『強気な話し方』が必要なのではないかという考え方です。また、『柔らかい話し方』が必要な相手の不平も受け入れて『譲歩を繰り返しても良い』のではないかという考え方です。もちろん、どちらの考えも間違いです。

話すときには、困りながら、謝りながら、切なそうに話し、ただ話の内容は譲れないお話しを覆す内容であることが、二次対応担当者が身につけておく極意です。

そのような時の会話の中で使っている言葉で、お客様の嫌いな言葉があります。相手の気持ちを苛立たせる言葉ですので、使わないようにしたいものです。

まず、こんな言葉を相手に言う事はありませんか?「すべてのお客様に公平・平等な対応をさせていただいております」というセリフです。お客様は「すべてのお客様と公平・平等」と言われるのは好きではありません。「今、この時点では自分がもっとも、困っている消費者なのに、何故、他の消費者と同じ対応をされなくてはならないのか!」というのが本音です。つまり、自分と他のお客様をひとくくりにされることは気分が良いものではありません。実際のところ、「すべてのお客様に公平・平等な対応をさせていただいて」良いのですが、真正直に、真正面から言って良い言葉ではないのです。

また、「誠意を持って対応をします」や「責任を持って対応します」と言う言葉も軽々しく使っていませんか?
「じゃあ、誠意ってなんですか?!」や「あなたにどんな責任がとれるんですか?!」と誰でもが噛みつきたくなる詭弁ですので、使わないように注意をしましょう。たちまち、言葉を返せなくなり、自分で自分の首を絞めることになります。例えば「私が誠心誠意、解決まで対応いたします」や、「私が誠実な対応をと思っております」と言い換えると良いでしょう。

 

中村友妃子          

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