アフターコロナ、及び新時代の経営を考えるにあたって、
“アート”が注目されています。
“教養としての美術(アート)”といったタイトルの書籍が続々出版され、
関心は高まる一方。
しかし、美術史や絵の見方的な本ばかりで、
ビジネス目線で見ると、正直、ちょっと物足りなさも覚えます。
そこで、よりビジネスに近い感覚、かつ、アートへの興味も増すような一冊を
紹介します。
『ならず者たちのギャラリー』(著:フィリップ・フック 、 翻訳:中山ゆかり)
です。
著者のクック氏は、オークション会社サザビーズの取締役で、
40年以上に渡って美術市場に携わる凄腕。
本書は、美術界の裏も表も知り尽くした著者が、美術史と美術品の価値に大きな影響を与えた
“画商”たちを描いた一冊です。
美術史には、画家と名画の話題は出てくるものの、画商の名はめったに出てきません。
しかし、画商の活躍(及び暗躍)によって、世界的な名声や評価を確立した画家も少なくありません。
特に、印象派以降の近現代アートは、知れば知るほど、画商の存在が大きくなる!
画家を育てる、画家を売り出す、そして、美術品を高値で売る。
これは、まさに一般的なビジネスにも当てはまることで、
今あなたに必要なヒントを得られるかもしれません。
何より、本書に登場する画商たちが魅力的!
近年は美術系大学や専門学校などの美術畑の出身者が多くなっているものの、
昔は本当に多種多様。
元自動車工、元美容師、さらには元テロリスト、裏で国家的スパイ任務を担っていた者も。
個性派揃いの画商たちの中で、個人的には、ピカソらの”キュビズム”を支援した
ドイツの画商カーンワイラーが特に印象的。
従来と全く異なる、評価の定まっていない新しいアートを売り出すにあたって、
一体何が必要か?
以下、カーンワイラーの言葉を引用します。
「私が最も大きな歓びを感じるのは、私が気に入った楽曲を嘲笑し、
やじを飛ばす相手の面前で断固として拍手喝采を送ることだ。
同じことは絵画にも言える。私は私が愛するものを守るのが大好きなのだ」
著者のクック氏は、カーンワイラーをこう評します。
「画商にとっては、必ずしも人当たりの感じの良さやこびへつらい、
あるいは滑らかな舌は必要ない。
カーンワイラーはその最高の例であるが、
その人の信念が、まさにその人の販売術になるのである」
好感度や巧みな話術以上に、信念こそが何よりの販売術になる、との指摘は興味深いところです。
また、カーンワイラーは第一、第二次世界大戦において、2度も政府に資産を没収されて
大ピンチに陥ったにも関わらず、不死鳥のごとく復活。
この人生劇も、経営者・リーダーにとって、大いに見ものと言えます。
揺るぎなき信念の人情ドラマもあれば、悪党たちの姑息な悪だくみもあり、
読み応え十分。
真の意味での”教養としてのアート”を知ることができるこの一冊、
ぜひとも読んでみてください。
尚、本書を読む際に、おすすめの音楽は、
『ブルックナー:交響曲第4番《ロマンティック》』
(指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット、演奏:シュターツカペレ・ドレスデン)
です。
ブルックナー:交響曲第4番《ロマンティック》/amazonへ
95歳の現役指揮者、ヘルベルト・ブロムシュテットの代表作の1つ。
NHK交響楽団の桂冠名誉指揮者でもあり、日本でもお馴染みの巨匠の名演、
本書と合せてお楽しみいただければ幸いです。
では、また次回。