抜擢人事というのは、いつの時代でも話題を呼ぶものだ。
今も語り継がれる大抜擢といえば、
松下電器の山下俊彦氏と、ソニーの出井伸之氏。
結果的に、それぞれ24人抜き、14人抜きで、
両氏以上のランクにあった役員を飛び越えてトップに抜擢されたわけだが、
そのことに関して、知人のある社長は私にこう語ったことがある。
「松下のときはさほど驚かなかったが、
ソニーのときはビックリしたというより、正直。ショックを受けた。
大抜擢人事は、松下幸之助さんというカリスマ創業者だからこそ成し得たのであり、
サラリーマン社長には不可能なことと思っていた。
それを大賀さんは実行してしまったのだから……。」
私の場合、外資系が長いということもあって、
日常茶飯事とはいわないまでもしばしばドラスティックな人事に出くわした経験があり、
さほど驚くようなことではなかった。
しかし基本的に日本企業は、会社に人生のすべてを賭ける人たちの集団であり、
そこは自ずと序列や順番が尊重される。
社長といえども創業者でないかぎり、それを壊すことは許されないという雰囲気があり、
それが彼にとってショックという反応に表れたのだろう。
伝統的な日本企業のあり方は、大きく変化しつつある。
これからの新しい時代に求められるリーダーとは、
いったいどのような人物だろうか。
以下、後継者や右腕となるべき人物を指名するにあたって、
トップは何を判断基準とするか、まとめてみたい。
トップが期待するリーダー像を見ることによって、
一流のリーダーとなるための参考とすることができるはずだ。
当時、ソニー社長の大賀氏は出井氏を後継者として指名するにあたり、
その理由について、記者会見でこう発言したそうだ。
「経営の難局に彼の心臓の強さを買った」
「ソニーの社長というのは、まず技術がわからなければならない。
そしてハードとソフトをバランスよくやれる人でなければならない。
全世界に出かけて行くわけですから語学力も絶対必要…。」
これをまとめてみると次のようになる。
(1)度胸がすわっている
(2)バランス感覚がある
(3)新分野への臭覚が鋭い
(4)語学が堪能である
この4つの条件は、日頃私が考えていることとほぼ一致する。
私は、《計算されたリスクを冒すことのできる人》としての
判断力・決断力のある人をリーダーの第一条件にあげているが、
《度胸がすわっている》というのも同じ意味だろう。
《バランス感覚がある》というのは、
技術部門なら技術部門だけ、営業なら営業だけに精通していてはダメということ。
後継者に指名された出井氏は、元々、営業や広報畑だが、
技術部門であるコンピュータやビデオ部門の部長もこなしてきた。
《ハードとソフトをバランスよくやれる人》というのも同じような意味で、
そうした人は《新分野への臭覚が鋭い》ものである。
(4)については説明するまでもなく、
現在では、英語にプラスしてもう一か国語をマスターしたいものだ。