流通系の情報シンクタンクを経営しているAさんには、スタッフを採用する際の不動のルールがある。
履歴書を一見し、勤めていた会社の解散や廃業の理由でもなく、3年未満で辞めた経験が複数ある人は、ほかの条件がどれだけ魅力的に映っても、基本的には候補者リストから外してしまうのである。
Aさんにいわせれば、どんな仕事でも最低3年は続けなければ、経験として生きてこない。反対にいえば、ひとつの仕事を3年続けていれば、その仕事から何がしかの収穫を得ているはずで、それがキャリアアップのステップになるという。
そうした主張から、意味のない転職を繰り返している履歴書は「汚れた履歴書」、確実にステップアップにつながる転職の軌跡がうかがわれる履歴書は「光った履歴書」と分類し、全社は切り捨ててしまうわけだ。
私は、Aさんよりさらに厳しく、ひとつの会社には少なくとも5年は在籍すべきだと考えている。
それ未満の転職・転社は、どんなに理屈をつけても、前職の経験を無に帰する結果になるだけと確信している。
以前、総務省が実施した「就業構造基本調査」によれば、20~24才の若い世代では、男女ともおよそ5人にひとりが転職、または離職している。
つまり、せっかく入った会社を、あっけなく辞めてしまうのである。
ところが、転職した人を追跡調査した結果、「転職してよかった」と思っている人は、全体の14パーセントに過ぎない。
辞める理由の第1位は「収入が少ない」。第二位は「時間的、肉体的負担が大きい」。第三位は「事業不振、先行き不安」と続く…。
今の会社がイヤになったという場合、転職するという選択肢のほかに、「独立する」「家業を継ぐ」という選択肢もある。中でも「独立」というのは一見、魅力的だ。
だが、いうまでもなく、そう簡単に成功への道が約束されているわけではない。むしろ、起業の世界は死屍累々だ。よほどの情熱と意思、そして強運に恵まれなければ、悲惨な結果に終わることは覚悟していなければならない。
そして、中途半端な夢に挫折した者が、再び転職組としてあなたの企業の採用募集に訪れてくるのかも知れない。
採用権限のある立場の者であるなら、留意しておきたいものである。