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製造業

第169 号 高等技術・技能をどう伝えるか~その3

柿内幸夫─社長のための現場改善

 あっ、もう11月だ!この頃は本当に時間の経つのがはやいです。歳のせいだと言う人もいますが、とにかくはやく感じます。

●このヒトの衣替えを見て、実感しました。

kaki169-1.jpg

 先回は、ビデオを使った高度技能の訓練方法をご紹介いたしましたが、今回は同じ高度技能の訓練でも、少し感じの違った事例をご紹介いたします。

 <事例その3>

 M社は精密な金属製品を作る会社です。そしてその中で、以前ほど量は多くないのですが、それでも時々注文が入る超高級品の生産工程で、大きな問題が発生していました。

 その製品(以下、Rとする)には、特殊な歪(ひずみ)取りの工程があります。最近の製品では、設計が変更され歪取り工程は機械化されているのですが、Rにおいては、人が肉眼で実物の表面を見て、ハンマーで叩いて歪を取るという仕事が必要なのです。

 昔はその製品はかなり売れていたので、作業ができる人が数人いたとのことです。しかし注文が減ってきたため、その仕事ができる方々が徐々に定年で会社を退社されていたにもかかわらず、新たな人材育成をしないでいました。

 その結果、現在ではやはり定年間近のKさんと最近Kさんの跡継ぎとして指名されて練習を始めたばかりの若手のWさんの二人しか、その仕事ができないという状態になっていました。但し、Wさんのレベルではとても使い物にならないというのがKさんの評価でした。

 ところが、徐々に注文が減ってきていたRに、海外から突然大量の注文が入りました。かなりの付加価値が取れるので営業は大喜び…だったのですが、何と運悪く、Kさんが病気で入院してしまったのです。

 Wさん一人では、とても注文はこなせないどころか、ひとつも完成品が出来上がらないかもしれない。これでは注文を断るしかないか…という決断をしかけました。

 しかし、この不景気な時にあまりにもったいないということで、ギリギリまでみんなでチエを出そうということになりました。そこで関係する人たちが現場に集まって議論を開始しました。

 最初の結論は、まずは、とにかくWさんに歪取りをやってもらって、どのくらいの精度が出るものかを見てみようということになりました。みんなが見ているところでWさんは緊張して、10枚分の作業を行いました。次の工程が研磨工程なのですが、研磨機には10枚重ねてセットするようになっているからです。

 そして、次工程担当のAさんが、出来上がった10枚を重ねて研磨機にセットしようとしましたが、その10枚がきちんと重なりません。Aさんは即座に「これでは全然研磨機に入らない」と思いました。Wさんは一生懸命に歪を取ったつもりでしたが、全然取れていなかったのです。

 そこにいたみんなはそれを見て、これでは注文を断らざるを得ないと覚悟を決めました。しかし、Wさんがそのきちんと重ならない10枚を見て、あることに気付いたのです。

 それは、その重ならない状態を見ると、どこの歪が取れていないかがよく分かるというのです。今までは一枚ずつを見て歪の状態を判断していたのですが、そのやり方では、見えない歪みが重ねたら見えるようになったという発見をしたのです。

 一旦見えてしまえば、もうどうすればいいかは分かります。分かれば行動に移せます。Wさんは新しく自分で見つけた方法を使って作業を再開し、その場でかなりの成果を出すことができました。

 これまでは、先輩の仕事のやり方を踏襲することに対して、全く疑いを持たずにやってきたのですが、ひょんなことから独自の方法を見つけることができたというわけです。

 それまでは、先輩がいるからあまり疑問も危機感も持たなかったWさんですが、もう後がない状態に追い詰められたところで、素晴らしい技術を開発してくれました。

 M社に多大な貢献をしてくれたことは言うまでもありません。なるほど、ピンチはチャンスと言うことですね。

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copyright yukichi

※柿内先生に質問のある方は、なんでも結構ですので下記にお寄せください。etsuko@jmca.net

 

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