※本コラムは2000年代に井原隆一氏が書き下ろした「不況は会社守成の好機」全41話のコラムを再連載するものです。
“難によりてすなわち材をあらわし、とどまらざれば将に得ることあらん。”
困難にぶつかって才能を表して事を行う。それを続けるなら必ず良い結果が得られる”
北宋の詩人欧陽脩(おうようしゅう)の文句だが、私がこの言葉を実際に思い浮かべたのは、銀行の本部営業部長代理当時。終戦で復員して間もないある日、突然、経理担当常務から呼ばれた。当時従業員中の切れ者と言われた常務。何事ならんと緊張して出向いた。予期に反してにこやかにこう話し出した。今度、銀行、企業の健全化のための法律が出る。
国家、企業の健全化の荒療治といえるものだ。当行も例外ではない。不良貸出を一掃するため、減資、預金の切り捨ても避けられないほどのものになるだろう。ついては、この仕事を井原君、
君にやってもらうことにしたから、そのつもりで。私のためらっている姿に活を入れるように“君ならできる”と言葉を強めた。これに答えるように頭に浮かんだのは首記の文句だった。
“人のやらないことをやれ”という歌は当時なかったが、学歴もなければ、後ろ盾もない一匹の野豚がエリート連中に伍して一人歩きするには人の尻込みすることを成し遂げることによって
材を表すことに限ると思ったわけである。
この仕事は約三年で無事終了。終わって三ヵ月後には本部“証券課長”の辞令を頭取から手渡された。その時、再び思い浮かべたのが首記の文句。
幾人かの先輩から“当行に井原という男がいることを知ったのは金融整備法”という難関を突破した時だったと。
※栗山英樹氏から、本コラム井原隆一氏の「人の用い方」書籍と、井原隆一「人の用い方セミナー」収録講演CD版・デジタル版を推薦いただきました!
監督の仕事は、選手の心を動かし、勝利の高みに導くことです。人をいかに用いて、信頼感を高めるか―――
その答えを求めて、私は井原さんの「人の用い方」のCDを5年間、毎日球場までの往復2時間、車の中で聴き、本をカバンに忍ばせていました。選手は勝利のために厳しい練習をしているわけですから、私は素振りの代わりが勉強だと思っています。