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採用・法律

第39回 『従業員から兼業をしたいと言われたら?』

中小企業の新たな法律リスク

美術工芸品の販売業を営む鈴木社長。従業員と食事をした際、従業員から実は休日に別の仕事ができないかと考えているという話が出ました。
同社はこれまで就業規則で原則として兼業を禁止しているので、それを認める場合、今後会社として、どのような対応が必要なのかについて相談するため、賛多弁護士のところを訪れました。
* * *
鈴木社長:先生、この前、従業員と話をしていたら、休日に兼業したいと言われました。兼業等を希望する人は年々増加傾向にあると聞きますが、まさか、弊社で言ってくるとは思いませんでした。、私としては、兼業をすると弊社の業務がおろそかになりそうなので、反対なのですが。
 
賛多弁護士:まず、副業や兼業をすることについて、裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるとされています。
 
鈴木社長:そうなんですね。しかし、弊社の就業規則では、会社の許可のない兼業は禁止しています。
 
賛多弁護士:そのような就業規則がある場合でも、裁判例は、このような兼職(二重就職)許可制の違反について、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職であれば、就業規則上の兼業禁止に対する違反とはいえないとしています。
 
鈴木社長:なるほど‥…就業規則で許可制にしても限界があるのですね。ところで、兼業等をした場合の従業員のメリットはなんとなくわかりますが、企業側のメリットは何でしょうか。
 
賛多弁護士:一般的には、①労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができること、②労働者の自律性・自主性を促すことができること、③優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上すること、④労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながることなどが、企業側のメリットといわれています。
 
鈴木社長:確かに言われてみれば、そうですね。弊社も兼業等について認める方向で考えてみたいと思います。その場合、会社としては、どのようなことに注意が必要でしょうか。 
 
賛多弁護士:1つ目として、安全配慮義務についてですね。労働契約法でも、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすることを企業側に義務づけています。兼業等では、労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、配慮をせずに、労働者の健康に支障が生じた場合などが問題となります。そこで、企業側としては、労務提供上の支障がある場合に兼業等を禁止・制限できることのほか、労働者に兼業開始時における届出や兼業開始後における報告について、就業規則等に定めることなどによって、適切な措置をとり、労働者の安全や健康に影響が出ないようにすることなどが考えられます。
 
鈴木社長:なるほど。労働者の全体としての業務量・時間というのがポイントになりますね。
 
賛多弁護士:そのとおりです。2つ目として、秘密保持義務の点についてです。これは、労働者が兼務先で自社の秘密を漏洩する場合と、労働者が自社において他社の情報を漏洩する場合があります。労働者が秘密漏洩する可能性がある場合には、兼業等の禁止や制限ができるように就業規則に定めておくことなどが考えられます。
 
鈴木社長:秘密漏洩は怖いですからね。
 
賛多弁護士:3つ目としては、競業避止義務の点です。在職中、労働者は使用者と競合する業務を行わないという競業避止義務を負っていますが、兼業等をすることにより、労働者が自社に対し競業避止義務違反となる場合と、他社に対して競業避止義務違反が生じることがあります。競業により自社の正当な利益を害する場合にも、就業規則等で兼業の禁止や制限ができるようにしておくことが考えられます。
 
鈴木社長:競業避止義務でも、秘密保持義務と同様に、問題がある場合は制限できるようにしておくことなどが重要なのですね。
 
賛多弁護士:おっしゃるとおりです。4つ目としては、労働者には誠実義務があります。これにより、労働者は使用者の名誉・信用を毀損しないなど誠実に行動することが求められます。そこで、就業規則等において、自社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合には、兼業等の禁止や制限ができるようにしておくことが考えられます。そのためには、誠実義務に反するような行為がなされる恐れがないか確認しておく必要がありますね。
 
鈴木社長:問題点について、事前に対策をしておく必要があるのですね。就業規則に定めておくと言われましたが、ひな形の様なものはありますか。
 
賛多弁護士: 現在の厚生労働省のモデル就業規則は参考になると思います。これまで説明した4点について、配慮した内容になっています。
 
鈴木社長:会社に戻ったら、早速見てみたいと思います。他に何か、注意することはありますか。
 
賛多弁護士:そうですね。兼業等を行う場合の手続、兼業等の状況を把握するための仕組み等を作る必要がありますね。また、長時間労働にならないよう、労働時間の管理等がとても重要で、その対応が必要です。
 
鈴木社長: 結構大変そうですね。今度、人事等の担当者を連れて、相談させていただきたいと思います。
 
賛多弁護士:細かな話もありますので、それがよいと思いますよ。
 
 
* * *
 
副業・兼業を希望する者は増加傾向にあるといわれています。そして、労働者にも企業にもメリットがあることとして、促進する方向での取り組みが推奨されています。本稿では、兼業等の促進についてのさわりの部分しか述べられていませんが、安心して副業・兼業に取り組むことができるよう、副業・兼業の場合における労働時間や健康管理等について、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdfを策定しており、本年9月に改訂もなされたところです。
今後も兼業等につき労働者のニーズは高まるのではないかと予想されますので、是非、一読されることをお勧めします。
 
参考資料(厚生労働省HPより)
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレット
 
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192845.pdf
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」 Q&A
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000473062.pdf
「モデル就業規則」(平成31年3月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html
 
 
 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子

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