3 不正のトライアングルを防ぐための経営基盤構築
企業にとって不正事件は、金銭的な損失はもちろんのこと、企業の評判を著しく傷つけ、組織の信頼を揺るがす大きな痛手となります。早い段階で不正の芽を摘み取れていれば、あるいは、そもそも不正ができない状況を作っていれば、防げた事件は無数にあります。
経営者の皆様は、この不正のトライアングルを理解したうえで体制を築き上げていく必要があります。
4 不正を未然に防ぐための3つのポイント:ウェルビーイング経営の視点
では、不正を未然に防ぐために、経営者の皆さんは具体的に何に目を向ければいいのでしょうか? 実は、「不正のトライアングル」を防ぐカギは、社員一人ひとりの「ウェルビーイング(心身の健康と幸福)」を高めることにあります。以下の3つのポイントをチェックし、皆さんの会社がより強く、より健全になるためのヒントを見つけてください。
1.職場への信頼は不正の「動機」を消す
「健康経営」という言葉が広まるように、社員が気持ちよく働ける環境は、会社の土台そのものです。単にルールを守るだけでなく、社員が「ここで働き続けたい」「会社に貢献したい」と思えるような状態を目指しましょう。
なお、借金など従業員が個人的に抱える問題を、会社が解決できるわけではありません。しかし、それによって心身状態が悪化すれば意欲や生産性が下がります。ましてや不正につながるようなことがあれば、結局は会社の損失となってしまいます。
心身ともに健康な従業員は、仕事上のミスがすくないという研究もあります。会社への不満が少なければ、不正に走る動機も軽減されます。
個人的な問題そのものを解決できるかどうかは別として、会社としては従業員の状態を適切に把握できるように、相談しやすい関係を普段から作っておきましょう。それが会社を守ることになります。具体的には、定期的な従業員サーベイやストレスチェック、1オン1ミーティングなどを活用し、従業員の状態に目を留め、ウェルビーイングを積極的に支援することが不可欠です。
2.ルールと仕組みの「透明性」は、不正の「機会」を摘む防波堤
仕事の権限が一人に集中していたり、ルールが曖昧な状況は、不正が起きる絶好の「機会」を与えてしまいます。たとえルールがあったとしても、その解釈が人によってバラバラだと、不正をする側は「これくらいなら大丈夫だろう」と自分勝手に「正当化」してしまいがちです。業務は複数の社員で分担し、お互いにチェックできる仕組みを作りましょう。
また、同じ社員がずっと同じ重要な業務を担当し続ける状態もハイリスクです。メガバンクの銀行員が、貸金庫から多額の金品を盗んだ事件も、会社が「機会」を与えてしまったケースとも言えるでしょう。チェック体制と共に、定期的に担当を変える「ジョブローテーション」も不正の機会を減らすために有効です。不正も防ぎやすくなるうえ、従業員のキャリア形成にも役立ち、メリットは大きいでしょう。
透明性の高い業務プロセスと明確なルールは、不正を「正当化」させないだけでなく、社員が会社を信頼し、安心して仕事に取り組める、まさしくウェルビーイングに繋がる要素です。
3.社内コミュニケーションの活性
意見を言いにくい、風通しの悪い職場では、問題が表面化せず、不正の温床になりやすいものです。社員が安心して悩みを打ち明けたり、気になることを指摘したりできる良好なコミュニケーション環境は、不正の「正当化」をさせないために極めて重要です。
定期的に社員アンケートで職場の状況を把握し、上司と部下が個別に話す1on1ミーティングなどを通じて、一人ひとりの状況を丁寧に把握しましょう。
特に、リモートワークが増えた今、ちょっとした雑談から気づける変化が少なくなっています。ちょっとしたミスや不安に気づきにくくなっています。これは極めてリスクが高い状態であり、上司側がメンバーに積極的に向き合う必要性は高まっていると言えるでしょう。
社員が孤立せず、安心して働ける環境は、彼らのウェルビーイングを高め、結果的に会社全体を不正から守る力になります。





















