しかし、こうした賃金管理上起きてくる問題を集約してみれば、概ね次の5つに要約されます。
【1】 採用初任給の決め方 | 【2】 賞与の上手な出し方 |
【3】 定期昇給のやり方 | 【4】 ベース・アップの上手なやり方 |
【5】 人事異動・昇格昇進制度の正しい運用 |
この5つのテーマを一連の作業として解決できれば、複雑で難しいと考えられてきた賃金人事の要点をクリアーすることができます。
【1】 人材採用を考えたとき、誰を採用し、どのような仕事(job)を担当してもらうか。初任給をどのような判断で、いくらと決めるか、きちんと説明できる根拠が必要です。
これは学卒採用と中途採用者の初任給の決め方に分けられますが、いずれの場合も世間水準に加えて、在籍社員との社内バランスはきわめて重要です。
【2】 毎年6月と12月には賞与が支給されます。この夏季および年末賞与を合理的にかつ公正に支給するためのルールとして、過去半年間の仕事品質がGood-Jobだったことを確認する成績評価制度が重要な役割を果たします。
【3】 定期昇給は、新規学卒者を迎える毎年4月に行われるのが一般的な慣例です。この昇給額の決定に際しては、仕事力の伸びの確認が必要であり、昇給評語を定めねばなりません。この昇給評語(SABCD)の確定に際しては、前2回の成績評語が重要かつ公正な資料として活用されて当然です。
【4】 ベース・アップ(ダウン)とは物価上昇や景況判断、労働情勢の動き、あるいは会社業績の推移等に対応するために定率または定額を給与加算(減算)することです。一部の企業では、定期昇給制度とベース・アップを混同して実施されるきらいがありますが、両者はもともと全く異質のものですから、明確に区別して運営されなければなりません。
【5】 どのような人に明日のわが社を委ねていくのか、人事異動・昇格昇進者の選考にこそ真の能力主義が貫かれていなければなりません。もしも昇給評語の累積で証明された仕事力の伸びが軽視され、年功登用が安易に行われるならば、会社の損失は計り知れないのです。
このようにして、年を単位とする一連の実務作業は責任等級を主軸とする合理的な賃金人事制度の運用によって解決されます。それは同時に社長自身が賃金決定の苦悩から解放され、経営に専念できる企業環境が整うことでもあるのです。