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マネジメント

楠木建が商売の原理原則を学んだ「全身商売人」ユニクロ柳井正氏

楠木建の「経営知になる考え方」

日本のトップ経営者・ファーストリテイリング柳井正氏

 僕自身は経営者ではないが、これまで仕事を通じて多くの経営者と接してきた。その中で自分の経営についての思考に最も強い影響を与えてくれたのはファーストリテイリングの創業経営者である柳井正さんだ。これまで15年間、ファーストリテイリングの手伝いをさせてもらっている。柳井さんから受けた影響は、僕の経営思考の知となり肉となっている。

 「服の商売なら、ひょっとしたら世界一になれる。確率は0.1%以下かもしれない。しかし、ゼロではない」――山口県宇部市の紳士服店「メンズショップOS」の店主、柳井正(1949‐)はまったく新しい洋服小売店「ユニーク・クロージング・ウエアハウスOS」の展開を決意する。1号店は広島。開店時に「OS」の文字は取った。略称は「ユニクロ」。これがすべての始まりだった。

 日本の上場企業トップ100社のうち、バブル崩壊後の30年間で最高の成長率を誇るファーストリテイリング。柳井は現役経営者として今もその先頭に立つ。

商売は顧客のためにある

 服は生活の部品であり、あらゆる人の生活を快適で豊かなものにするために存在する――ファストファッションはもとより、従来のカジュアルウェアとも一線を画す「ライフウェア」。服の長い歴史の中で誰も思いつかなかったコンセプトが成長を駆動した。成長それ自体は目的ではない。経営理念の第1は「顧客の要望に応え、顧客を創造する経営」。商売は顧客のためにある。成長は結果に過ぎない。

 外来文化である洋服。固定観念のない日本には「あらゆる人の生活のための服」が生まれる素地があった。素材開発の技術力、細部まで完成度を徹底的に追求する匠の精神、余計なものを削ぎ落した機能美を尊ぶ文化――ライフウェアの原点は日本にある。日本の強みを活かし、日本発のグローバル企業を創った柳井は代表的日本人にふさわしい。

柳井正氏に学んだ「商売の原理原則」

 2008年に仕事を手伝わせてもらうことになった。最初の面談でいきなり「あなたの強みは何ですか」とよく通る低い声で問われた。返事を探していると、せっかちな柳井は横にいた役員に「この人の強みは何ですか」。「僕も初対面なのでわかりません」――目の前の柳井が発する気合に押され、笑うことができなかった。

 柳井の考えを言語化し、原理原則に落とし込む。それが柳井との最初の仕事だった。門前の小僧、習わぬ経を読む。以来15年、柳井の話を横で繰り返し聞いているうちに、商売の原理原則を知った。

 社内の議論の場で叱られた。「経営は実行しなければ意味がない。あなたが言っていることは大学教授の評論だ!」――実際にそうなのだから返す言葉がない。「僕は評論を実行しています」と言うしかなかった。

 服を変え、常識を変え、世界を変える――社会を支えるインフラになるという志が一挙手一投足に漲る。毎日早朝に出社し、全身全霊を込めて仕事をする。夕方には仕事を終え、帰宅する。原則的に会食はしない。帰りにたまたま駐車場で一緒になった。「毎日この時間に帰宅して、家では何をしているのですか」と聞くと、「朝から全力で商売をしてるんですよ。家で休むこと以外に何ができるんですか」――まるでアスリート。すべてを商売に捧げた全身商売人の姿がそこにあった。

柳井正氏の「ひょっとしたら世界一」

 内省的な人で、決して明るい性格ではない。しかし、経営スタイルはあくまでも明るい。いつも「ひょっとしたら」で考える。「絶対にうまくいくのか」とは問わない。そんなことであればとっくに誰かがやっている。誰もやったことがないような商売を「ひょっとしたら」で構想し、実行する。その繰り返しの先に今日のグローバルなユニクロがある。

 人間社会の真善美を信じ、「正しい商売」にこだわる。社会に役立ち、顧客に喜ばれる商売を突き詰める。正面から矛盾にぶつかり、失敗を恐れない。誰に対してもストレートに物を言い、裏表がない。一言で言えば、清々しい。

 「ひょっとしたら世界一」――その時は着実に近づいている。

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