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製造業

第183号 新人を育てる責任

柿内幸夫─社長のための現場改善

 京都出張の際、時間がある時に、この哲学の道を散歩することがよくあります。哲学者の西田幾多郎先生たちが思索にふけりながら歩いた道だそうです。

 私もいいアイデアを出したいので歩くのですが、歩く量がまだ足りないようです。
●新緑の中、心が静まり思案がまとまります。

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 これまで3回にわたって新入社員について挨拶、作業訓練、改善発表と続けてお話をしてきました。今回はその最後として、これから先、新人を辛抱強く育てることについて私が考えていることをお話したいと思います。

 私が社会人になったのは37年前です。その頃のことは今でもかなり鮮明に憶えています。今でもその傾向はかなりあるのですが、当時は今より更に間抜けなことをしておりまして、時々何かの拍子にそれらを思い出してとても恥ずかしくなります。

 例えば、許可を取らずに勝手に会社の掲示板に自分で書いたポスターを貼って、当時自分には不要になった品物を売ろうとしました。貼ってすぐに総務部から私の上司の課長宛に電話が入り、私は怒られてすぐにその場ではがしに行きました。

 入社当初、私は課長を雲の上の人のように思っていましたから、大きな声で突然に呼ばれてとてもびっくりしたことを憶えています。なぜそんなことをしたかというと、会社の掲示板を家の近くの電信柱と同じようなものと勘違いしたからです。会社の掲示板と電信柱は違うということを知らなかったのです。

 あるいは、体育館に並べられた大量の椅子を片付けるように言われました。私は一人で片付け始めたのですが、先輩から「一人でやったら日が暮れるだろ。何人かの人に頼んで手伝ってもらえ!」と言われました。

 それもそうだと思い、数人の人にお願いした上で、私が人に頼んだ手前もあり、少しスピードを上げてバタバタと運んでいたら、そこでまた怒られました。

 「お前が動いてばかりいたら他の人はどうしていいか分からないだろ。きちんと仕事の段取りを説明してから動け!」と言われ、なるほどとえらく感心したことを覚えています。なぜそんな当たり前のことができなかったかというと、経験がなかったからです。

 やはり知らなかったり経験がないことを最初からきちんとやろうとしても無理がありますね。そして新入社員の場合は、それまではずっと学生ですから学校のことしか知らず、会社についてはほとんどがゼロから学ぶことばかりだと思います。

 私たちは「自分が何を知らないか」を知ることはできません。だから新人は「知らないこと」について前もって質問ができません。失敗して初めて「知らなかったこと」を知るわけです。

 あるいは自分が当然知っているだろうと思っていたことを、相手が知らなかったと分かってびっくりすることがあります。

 最初から分かっていれば早めに伝えておくことができますが、そううまく行きません。その結果、「だったら早く言えばよかったのに!」といった会話をしばしば耳にすることになります。

 私自身は、先ほど書いたように非常に間抜けであったのですが、先輩に叱られながらも親切に教えて頂くことで社会人として生きてこられましたし、何と逆に人に教えることもできるようになりました。ありがたいことだと思っています。

 ですから電車の中で先輩らしい人たちが「今年の新人は常識がなくて困るよ」といった会話をしているのを聞いたりすると自分の昔をありありと思い出してまた恥ずかしくなります。

 さて、そこで今回は自分の経験からの結論です。新人は知識も経験もありません。「こんなことも知らないのか!」と呆れてしまうことばかりかもしれません。

 しかしそこで自分がやった方が早いなどと思わずに、「こんなことも知らないのか~、コイツにはたくさん教えることがあって楽しいなあ!」くらいの気持ちでしっかり教えてあげてください。

 いくら教えてもきりがないと思えることもしばしばあるかもしれませんが、やはここは辛抱強く教えてあげてください。必ず育ってくれますから。

私はとても辛抱強く、何度も繰り返して教えるのが得意です。先輩たちにそういう教え方をして育てて頂いたので、そのやり方の正しさを確信しているからです

 会社の力は人の力です。そしてその人の力は自分たちで育てるものです。どうぞ若い方々をしっかりと育ててあげてください。よろしくお願いします。 

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copyright yukichi

※柿内先生に質問のある方は、なんでも結構ですので下記にお寄せください。etsuko@jmca.net 

 

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