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採用・法律

第128回 従業員に対する2つの配慮義務

中小企業の新たな法律リスク

2024年4月から改正障害者差別解消法が施行され、あらゆる事業者にとって、障害者に対して合理的配慮を提供することが努力義務から法的義務へと強化されましたので、最近、「合理的配慮」という言葉を耳にすることが増えたかもしれません。

 

もっとも、職場では、障害者雇用促進法の改正による2016年4月の導入当初から、合理的配慮の提供は事業主の労働者に対する法的義務であったことは、意外にも知られていません。近年は、労働紛争において合理的配慮提供義務の存否やその不履行が争われるようにもなっており、人事労務や産業保健における一大テーマとなりつつあります。

* * *

藤森社長: 今年の4月から障害者に対する合理的配慮が事業者の義務になったそうですけれども、当社としては、店舗を利用されるお客様の中に障害者がおられた場合にお買い物をしやすいようにできる限りの対応をすることを社員に徹底しておくということで十分でしょうか。

 

賛多弁護士: そうですね、まずはそれが大切なことですね。ただ、日常生活で多くの障害者に接しているような方でなければ、それぞれの困りごとや必要な配慮について想像力を働かせて対応することは、なかなか難しいことかもしれません。お客様の中には、理解が難しい障害をお持ちであったり、対応が難しい要望をされたりする方もおられるかもしれませんが、そういうときに話が噛み合わないと、興奮されて強い言葉で抗議をされることもあるかもしれません。

 

藤森社長: そのようなことになったら、お客様とのトラブルになりますし、接客した社員もショックを受けたり、傷ついたりしますね。

 

賛多弁護士: 素晴らしい想像力ですね。そのような事態を招かないようにするには、社員の臨機応変な対応に任せるだけではなく、障害者の事情をよくご存知の講師を招いて社員研修を実施したり、現場での対応をシミュレーションして話し合う職場検討会を実施したりすることを検討されてはいかがでしょう。

 

藤森社長: はい、是非やってみたいと思います。ところで、合理的配慮は、社員に対しても提供しなければならないと聞いたのですが。それも今年からですか。

賛多弁護士: そのように勘違いされている方が多いのですが、実は、社員に対する合理的配慮は、8年前から法的義務なのですよ。

 

藤森社長: えー、そうだったのですか。でも、うちの会社はまだ人数が少ないこともあって、障害者は雇っていないから、まだ関係ないですよね。

 

賛多弁護士: それが、関係ないことはないのです。障害者の法定雇用率の算定とは異なって、合理的配慮の提供が求められる「障害者」は、障害者手帳を取得していることが要件になってはいないのです。したがって、精神疾患やがん等の慢性疾患をお持ちの社員にも、合理的配慮を提供することが求められていると言えるのです。

 

藤森社長: 安全配慮義務だけでも大変だと思っていたのに、他にも配慮しなければならない義務が増えたのですか。

 

賛多弁護士: それほど負担に感じられることはありませんよ。むしろ、合理的配慮提供義務が導入されたことによって、それまで分かりづらかったかもしれない安全配慮義務の内容がクリアになりました。また、合理的配慮とは、本質的な目的を達成するために理にかなった調整や工夫をするということですから、ビジネスの発想になじみやすい考え方です。

安全配慮義務は、最近は、安全だけではなく健康までカバーされていることを明確にするために、安全・健康配慮義務と呼ばれています。改めて、2つの配慮義務について、整理してみましょう。

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