合理的な等級制度下の賃金体系 ②基本給表の仕組み
2024年度の都道府県別最低賃金の答申が出そろいました。最低賃金が1,000円を超えるのは16都道府県にのぼり、全国平均では51円アップの平均1,055円となりました。今後も続くと考えられる大幅な賃金水準の底上げに対処するには、ベースとなる堅固な賃金表を持つことが不可欠です。
ただし、これは決して難しいことではありません。前回取り上げた責任等級ごとに、その責任レベルに相応しい基本給水準を設定すれば、合理的な賃金決定ができるようになるのです。
責任等級別にその仕事に対する基本給額を定めたものが等級別基本給月額表と呼ばれるものです。ご紹介するのは1号当たりの差額(以下、号差金額という。)が等級ごとに一定額に設定される等差号俸制と呼ばれるタイプのものです。
仕事の責任の重さと階層区分
責任等級別の仕事の内容
責任等級別に基本給のレンジ(下限―上限の範囲)を定め、その範囲内での習熟による昇給を行っていこうというもので、中小企業においては社員に対する中長期的なインセンティブ効果が期待できるうえ、社員の将来不安を解消しやすいこともあって、多くの企業で採用されている賃金表タイプです。
昇格によって等級が上がれば、基本給の上限額が上に伸びるだけでなく、号差金額もまた上昇しますので、昇給額もアップします。
中小企業では、賃金制度が社員にとって分かりやすいものでなければいけません。そうでなければ、社員が安心感をもって働き長く定着するという効果は期待できなくなってしまいます。その点では、等級ごとに、それぞれのスタートとなる金額(等級別初号値)と号差金額を決定して設定される「責任等級制」賃金表の構成はいたってシンプルで分かりやすいものと言えましょう。
ここにご紹介するのは、2024年度(最低賃金改定前)の大都市中位水準と呼んでいるモデル水準の基本給表であり、このテーブルは給与規程上で公開することを基本ルールとしています。
これを一覧表に展開すると、次のような基本給月額表として表示できます。(ここではⅢ等級までを掲載。20号以上は10号刻みで表示しています。)実際には、自社の等級構成に合わせて全等級の号数を掲載します。
基本給月額表
正規従業員の基本給月額に合わせて、時給換算の金額(1ヵ月の所定労働時間160時間の場合)を併記していますので、これによって正規従業員と同等の仕事をしている有期雇用社員がいる場合には、その時給(=同一賃金)の目安が分かるようになります。(正社員の給与規程上では、時給換算額を掲載する必要はありません。)
このような処遇決定上の体制を整えておくことも、公平な賃金制度の実現に向けての大切な要素となっています。
続いて、定期昇給の運用ルールを確認しておきましょう。等差号俸制の賃金表は、正しい昇給ルールがあって初めて社員のやる気を引き出す賃金制度として機能します。定期昇給の最も重要な点は、評価によって昇給額に差の付く“実力昇給”であることです。
定期昇給は、これからの1年間に発揮される能力への期待度に応じて5段階の昇給評語を決定し、昇給額に反映させます。これにより競争意識を醸成し、切磋琢磨する気風を根付かせます。昇給ルールが正しく設定され、安定的な昇給運用が継続されてこそ、定年までの長期雇用となる正社員のインセンティブ効果が期待できるということを、経営者や人事責任者はしっかり意識していただきたいと思います。
基本となる昇給評語と昇給号数の関係は以下のとおりです。
昇給評語 | S | A | B | C | D |
昇給号数 | 6号 | 5号 | 4号 | 3号 | 2号 |
年齢給や勤続給が基本給を構成している会社では、年功要素で昇給していることとなりますから、組織の活力を引き出せません。
正しい昇給ルールに基づいて定期昇給を継続すれば、最優秀の評価を受けるオールSモデル社員には対外的にも見栄えのする高給を支給し、反対にオールDモデル社員にも生活最低保障の要素を織り込みながら、仕事に励みを与える最低限の昇給をすることができるようになります。
生活最低保障に相当する部分は、等級別の年齢区分にもとづいて段階的な昇給抑制を実施することにより、仕事と賃金のミスマッチが生じないよう調整します。この仕組み(=調整年齢制度)については、次回に取り上げます。(続く)