セリアという会社は100円ショップではあるが、実際は概念的に全く新しいタイプの小売業という位置づけである。業態としては100円ショップであり、一般的にはダイソーに次いで業界2位と表現される。しかし、現実的には2位なのは店舗数だけで、売上高、利益ではともに業界トップの会社である。店舗数はダイソーの2分の1以下のため、知名度ではダイソーに劣るものの、5年ほど前にダイソーの売上を上回り、現在の営業利益はダイソーの2倍という会社である。
同社の最大の強みはPOSデータの解析力であろう。日本の小売業の多くは十数年前にすでにPOSの設置を行っている。中にはさらに進んだID付きPOSと呼ばれるFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)まで行えるポイントカードシステムを導入している企業も多い。しかし、POSにしてもポイントカードにしても、そこで得たデータを解析して仮説検証を行いながら最適解を導くという作業があって、初めて大きな効果をもたらすものである。
しかし、それらに最大のエネルギーを注いでいる会社は、ほんの一握りに過ぎない。これらデータを経営に生かしていると言える企業の代表は何と言ってもセブン・イレブンであろう。もともと、セブン・イレブンが日本のPOS導入の草分けであり、その動きを見てその他多くの小売業がその形式のみを真似したのである。しかし、これらのシステムは形式のみ真似してもほとんど意味のないものである。多くの企業がポイントカードを単なる割引手段としてしまった。一方、先進的な企業としてヤオコーが最近FSPを導入し、実際の企業戦略にも大いに生かしているところである。
これら先進的企業に並んで、POSにより収集したビッグデータを毎日1億回計算し、経営に生かしているのが同社である。売れ筋商品の把握に始まり、在庫管理、そしてサプライヤーに対する受発注管理も行っている。同社では受発注を精緻にコントロールすることで、サプライヤーの負担が軽くなるように図り、全体最適を目指している。
同社によれば、商品開発は女性がふさわしいにもかかわらず、メーカーの商品開発は80%が男性であり、商品開発にはふさわしくないと見ている。一方で、データ解析は男性向きの仕事であることから、同社は男性社員で解析を行い、サプライヤーにその情報を提供し、サプライヤーは女性中心に開発を行うというような役割分担を志向している。
このように同社は、自らは精緻なデータ解析を行い、開発から生産はサプライヤーに依存して、効率的かつ最適な関係をコーディネイトする企業と位置付けられる。
有賀の眼
商品を安く売るという観点から言えば、ディスカウントショップも100円ショップも似たようなイメージがある。しかし、根本的に違う点は、ディスカウントショップの競争は価格に特化しやすいため、その中で活路を見出すのは極めて難しいということがある。しかし、価格が100円と決まっていると、競争はいかに付加価値を高めるかという方向に向かうため、付加価値化に成功すれば、収益性を高められる可能性は格段に高いと言える。
同社には必需品を安くするという発想はあまりないように思われる。むしろ、なくてもいいものを安くすることによって、マーケットが大きく広がるという発想がある。たとえば、手芸用品は高いと興味を持つ人が少ないが、それ自体が安ければ、その手芸用品を使って何かを作った時にかなりお得感が出る。よって、マーケット自体が大きくなるということである。
このようにして、ホビーグッズ、雑貨、インテリアなどでマーケットを想像したことによって、そういうものはセリアで買いたいというもはやブランドを確立したことも強みである。