其の五
バランスシートは「見える」ではだめ、しっかり「見る」べし
ボーっと「見ている」だけでは、バランスシートの数字は分かりません。ただ、目にバランスシートが映っているだけです。
しっかり意識して「見る」事が肝心なのです。
資産がお金の泉、つまり水であれば、負債はバケツに開いた穴です。穴が大きければ、泉の水はすぐになくなってしまいます。
泉を潤沢にするためには、穴をふさぐことが一番です。
しかし、その穴が見つからないのです。見つかっても穴の大きさを見誤ってしまうのです。バランスシートをしっかりと「見る」ことをしないからです。
支払うお金が十分にあるにも関わらず、手形を発行している会社があります。受け取った側からしてみればいい迷惑かもわかりませんが、穴をふさぐことを考えれば当然のことです。
穴が大きければすぐに発見できます。穴が小さければ意識して「見る」ことをしなければ、そしてその数が多ければ、どこの穴から塞いでいいかわからなくなります。
穴が借入れの場合も、その穴の状態は様々です。借入先がたとえ金融機関でも安心はできません。
金融円滑化法が終了しましたが、金融機関の逆襲が始まっているようです。金融円滑化法では、リスケを行っても債務者区分は下げないことになっていました。しかし、金融機関は独自に債務者区分について再評価しているはずです。
事実、円滑化法が終了し、借り手に、このまま「正常先」のままでいたければ、全額返済を要求していることもあるようです。
穴を一度は塞いだのですが、その反動がことのほか大きく、前よりも大きな穴になっていったのです。
金融機関は、面倒な債権は、系列のサービサーに売却することも珍しくありません。そうなれば、返済条件等が変更され、穴が大きくなってしまうだけでなく、何社かのサービサーに譲渡されれば、穴の数が増えてしまうことになります。
借入先が反社会的なところであれば、穴は急激に大きくなっていきます。
再度、負債の中身を整理しておくことです。
其の六
バランスシートの心地よさを感じられればしめたもの
心地よさは、損益計算書にはありませんが、バランスシートにはあります。バランスシートの心地よさを経営者や経理担当者が感じてもらいたいのです。
とはいうものの、なかなか、心地よさをどのようにしたら感じられるか、わからないと思います。
心地よさは経営分析とは違います。客観的なものというより、経営者の主観的なものと考えた方がいいでしょう。
借金は無い方がいいのですが、経営者の中には、無借金経営は心地よくない人もいます。ある程度の借金をした方が、緊張感があり、そういった意味で心地いいのです。
手形の振り出しは、万が一、不渡りになれば、会社に「死」をもたらすため、振り出さない方がいいに決まっています。
しかし、資金繰りでどうしても振り出さざるを得ないことは多々あることです。このような手形の発行は、決して心地いいものではありません。
しかし、先ほどお話ししましたが、次のような会社もあるのです。
資金的には支払う余裕は十分あるのですが、あえて、手形を発行します。それによって、さらに資金余剰が生まれると同時に、緊張感があるといいます。
10人いれば、みな、それぞれの心地よさは違うものです。
あなたの会社のバランスシートは、心地いいものになっていますか。
損益計算書は、正直、誰でも読みこなすことは可能です。
いくら儲けたのか、そのためにいくら犠牲になったのかを表すのが損益計算書ですから、それほど難しくありません。
粗利益は低いより高い方がいいに決まっています。粗利益、営業利益、経常利益そして当期純利益のバランスもわかります。
一番簡単なバランスは、金額の大きさでいいますと、粗利益>営業利益>経常利益>当期純利益となっていることです。
バブル時には、多くの会社が、粗利益>営業利益<経常利益になっていました。
投資による儲けは営業外収益に計上されるため、経常利益が営業利益を上回っていたのです。
当然の結果ですが、そのような会社の多くは、今は存在しません。本来の事業の儲け以上に、投資に力を注いでいたのですから。
同じような現象が、ITバブル時にもありました。
正直、中身がなくても上場でき、多額の資金が、経営者や会社に入り込み、もともと、事業自体があやふやだったため、資金を事業に使用する頭がなかったのです。ほとんどが他の会社の株式を買い取る、いわゆるM&Aに精を出していたのです。
マネーゲームの結果、ほとんどの会社は、いわゆる「箱」になってしまいました。形だけは上場会社なのですが、時価総額も数億円程度にまでなり、上場会社を手に入れたい輩の格好のターゲットになっています。
経営者の多くは、上場直後の株価、通常、初値が忘れられないもので、何とか、そこまで奪回したいために、ますます泥沼にはまっていくのです。そして多くは粉飾決算を行い、自滅していきます。
これがつくられた実体のない上場会社の結末です。