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マネジメント

第106回 『無言からは人間関係は生れない』

社長の右腕をつくる 人と組織を動かす

日本社会は、「話さなくても心が通じ合う」という共通認識の上に立っているといってもいいだろう。
「以心伝心」や「腹芸」など、それに類する言葉も多い。

だが、何も話さずに相手に自分の気持ちを的確に伝えることが可能だろうか。
説明なしに正しく理解してもらえるのだろうか。
 
 
ある支店長が部下を厳しく叱責していたとしよう。
文字通り、怒鳴りつけているといった趣だったとする。
 
それをたまたま本社の人間が目撃していたとして、本社の担当役員にこんな報告をするかもしれない。
「○○支店長は、人の面前で部下を大声で怒鳴りつけていました」
 
すると、この報告を聞いた担当役員は、
「○○支店長は気短で感情的。部下に対する指導力が不足している」
 
という印象を持ったとしても不思議ではない。
 
では、叱責にいたった経緯はどうか。
 
その部下は何度も同じミスを犯す人間だった。そのため、支店長は今回も事前に十分に説明し、
細かく指示を出していた。そこで、厳しく叱責していたのだ。
これが経緯であったとしたら、本社の役員が支店長に抱いたイメージとはまるで反対になる。
 
このように、ある意味で「事実」でさえ誤解を生むことはあるものだ。
 
 
身近なところでいえば、妻や子供といった肉親でさえ、相手を理解しようと意識的に努めながら
コミュニケーションをとらないと、お互いに、何を考え、何に迷い、何に悩んでいるのかわからない。
 
ましてや、企業は他人社会だ。
事実が誤解を有無どころか、誤解が誤解を増幅させる二重の危険もある。
“自分の言わんとするところは、言葉に出さなくてもわかってもらえるはずだ・・・”というのは、
過剰なうぬぼれにすぎない。部下との行き違いはそうしたところから生れる。
 
 
説明せずに何がわかるというのか。
やはり、正しい理解を得るためには、自分の気持ちを伝え、説明する必要があるのだ。
 
いや、とくに企業という他人社会においては、Accountability、日本語でいえば「説明責任」が
あるといったほうがいいだろう。
 
例えば、A、B、Cの三人の部下がいたとして、ある仕事をAに任せる場合、
Aに対して「やれ」と指示を出すだけでなく、なぜAを指名したのか、Aだけでなく
B、Cにも説明すべきだ。
 
とくに、若い人に対しては、そうした配慮が必要だ。
 
 
無言からは人間関係は生れない。まして、コミュニケーションは深まらない。
そして、説明するにしても、次のチェーホフの言葉を心したい。
 
=優しい言葉で相手を征服することができないような人は、いかつい言葉でも征服できない=
 
 

 

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