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マネジメント

第12回「企業変革の障壁」

楠木建の「経営知になる考え方」

経営者ジャック・ウェルチに見る企業変革の本質とは

 企業変革の本質は創造的破壊にある。だから難しい。創造と破壊は対照的な戦略思考に立脚している。破壊が支配的になると、創造に手が回らなくなる。逆に、腰を据えて創造に取り組めば、過去を切断する大胆な意思決定に目が向かなくなる。

 創造的破壊に成功したという事例は非常に少ない。何回かに分けて、戦略転換による企業変革の古典的な事例を使って考えてみたい。ジャック・ウェルチという特異な経営者によるGEの20年がかりの企業変革(1981-2001)だ。

 ジャック・ウェルチによるGEの改革は、1981年に彼がCEOに就いたその瞬間から始動した。GEを変革する大胆な意思決定をウェルチは次から次へと繰り出した。彼がCEOになったときのGEは、よく言えば洗練された経営システムで粛々と動いていく安定志向の大企業、悪く言えば官僚的で動きが遅い内向きの「出来上がった会社」だった。20年後にウェルチが退任したときのGEは、やたらと筋肉質で意思決定が早く動きも速い攻撃的な企業グループに180度変わっていた。

 その後四半世紀、GEは山谷を経て現在に至るが、ウェルチ時代ほどに劇的な企業変革の事例は滅多にない。古い話ではあるけれど、ジャック・ウェルチのGE改革を振り返る価値はある。

 

GEを「変えにくい会社」にした3つの条件

 まず確認しておきたいのは、彼がCEOに就いた当時のGEは、変革を困難にする条件がほとんどすべてそろっていたといってもいいほど「変えにくい」会社だったという事実だ。

 第1に規模。いまもそうだが、81年当時のGEはアメリカのみならず世界的にみても有数の超大企業だった。81年当時の従業員数は40万人。当然のことながら、規模が大きな会社の方が変わりにくい。

 第2に事業構成の複雑性。当時のGEは多種多様な事業を内部に抱えるコングロマリットだった。ウェルチの時代はこうした多角化した大企業はまだ数多くあったが、今ではコングロマリット経営が「時代遅れ」とされ、「コングロマリット・ディスカウント」というような言葉が人口に膾炙するようになった。それほど相互に関連していない多種多様な事業へと水平的に広がっている会社であるほど、変革をしようとしても焦点が定まりにくくなる。会社全部を丸ごと変革するのは至難の業だ。

 第3に歴史と伝統。GEは81年当時でもきわめて長い歴史を誇る伝統企業だった。1896年にダウ・ジョーンズ・インデックスがアメリカの12の企業の株を対象につくられたとき、そこに組み込まれている企業で現在も残っているのはGEだけである。誰でも知っているように、GEの創業者は、「発明王」と呼ばれたトーマス・エジソン。正確にいつのことだがわからない人でも、名前を聞いただけで長い歴史のある会社だということはわかる。

 長く続いている企業ほど、会社の中に成功体験やさまざまな「良いこと」が蓄積されている。ネガティブな言い方をすれば、「しがらみ」も多くなる。これに対して、若い企業であれば、過去を否定し、これまでの蓄積を切り捨てるのは相対的に容易になる。歴史と伝統は企業変革の障害になる。それが創造的破壊のうち、破壊の方をことさらに難しくするからだ。

 

「前任者の業績」という強烈な逆風

 規模と複雑性と伝統、これだけでも大変なのに、変革を意図するウェルチにとって、最も強烈だった逆風は、前任者の達成した輝かしい業績だった。ウェルチの前のGEのCEOは、レグ(レジナルド)・ジョーンズ。「レグ・ジョーンズ」という名前は聞いたことがないという方も多いかもしれない。しかし、この人は(81年当時は)世界中に名声をとどろかせた大経営者であり、アメリカの代表的なビジネス誌は、いずれも「70年代最高のCEO」の称号をジョーンズに与えていた。

 当然のことながら、ウェルチが就任した時点でも、ジョーンズに率いられたGEの業績は悪くなかった。悪くなかったどころか、非常によかったのである。70年代の不況とインフレをものともせず、ジョーンズは着実に売り上げと利益を引き上げてきた。81年時点でのGEは、傍から見れば企業変革の必要性がまるでないような、高収益企業だった。

 業績が悪化し、危機的な状況にあることがはっきりしている企業の方が変わりやすい。創造的破壊のうちの「破壊」の方が、競争や環境変化によって半ば「実現されている」からだ。ようするに、今も昔も、「好業績こそが変革の最大の敵」なのである。

 こうした変革の障壁をウェルチはどう乗り越えたのか。これについてはまた次回。

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